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BYE, CAPTAIN

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NEW OPUSコラム
公開
2011/04/15   14:30
更新
2011/04/15   14:31
ソース
bounce 329号 (2011年2月25日発行)
テキスト
文/鈴木智彦

 

キャプテン・ビーフハートの自由で楽しい実験ロックには、涙なんて似合わないよ!

 

2010年12月17日、画家であるドン・ヴァン・ブリート(69歳)の訃報が届いた。彼が音楽家、キャプテン・ビーフハートとして活動していたのはもう28年も前のことになる。82年作『Ice Cream For Crow』を最後に40歳そこそこで音楽界から引退。以来、画家としての時間を生きた故人のこの28年間を、芸術に疎い僕はほとんど何も知らない。それでも、フランク・ザッパと共に彼がその音楽活動期間を通して一度も手放すことのなかった、純度の高いロック・サウンドは、僕がこれまで出会った音楽のなかでもかけがえのないものとして大切にしている。

オーネット・コールマンのフリージャズからリズムとメロディーが同時にポリリズムを奏でるという自由な表現を学んだビーフハートは、宇宙に満ち溢れているノイズとリズム、メロディーの混沌としたシンフォニーを具現化していった。それは、平均律(ドレミファソラシド)で構成されたお行儀の良いポップスにはないものであり、まるでピカソが遺した絵や彫刻、造形物に近いものであった、とも言える。

先に挙げた『Ice Cream For Crow』と、その前作にあたる80年作『Doc At The Rader Station』がタワレコ限定で日本盤化され、70年作『Lick My Decals Off, Baby』、72年作『The Spotlight Kid』、78年作『Shiny Beast(Bat Chain Puller)』の3作品がタワレコ独占で再プレスされることとなった。この機会に、人気の高い69年作『Trout Mask Replica』と併せて彼の音楽世界に触れてもえれば、ロックとは(平均律しか奏でない退屈な音楽に対する)カウンター・カルチャーであったのだ!ということがよく理解できるはずだ。

難解でも、アヴァンギャルドでもなく、ただただ美しくピュアなロックを奏でた音楽家であった。28年も別れの挨拶が遅れてしまったが、今度こそ本当にさようならを言う時だ。さようなら、ビーフハート。

 

▼キャプテン・ビーフハート&ザ・マジック・バンドの作品を紹介。

左から、80年作『Doc At The Rader Station』、82年作『Ice Cream For Crow』(共にVirgin/EMI Music Japan)、70年作『Lick My Decals Off, Baby』、72年作『The Spotlight Kid』、78年作『Shiny Beast(Bat Chain Puller)』(すべてReprise/ワーナー)

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