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第27回――NUKEY PIKES

連載
その時 歴史は動いた
公開
2011/09/17   18:01
更新
2011/09/17   18:01
ソース
bounce 334号 (2011年7月25日発行)
テキスト
文・ディスクガイド/行川和彦

 

Nukey Pikes_A

結成は89年の1月。メンバーは吉本典正(ベース)、岩田有史(ギター)、松岡至(ドラムス)、三橋厚志(ヴォーカル)という不動のメンバーで東京と千葉を拠点にライヴを重ね、90年にドイツのレーベルからEPを発表。91年には英国のヘレシーの元メンバーによるレーベルから、初作『NUKEY PIKES』をリリースする。徐々にアンダーグラウンドで話題となってきた92年、同作に曲を追加&アートワークも変更して日本盤をリリースした〈その時〉、日本のパンク/ハードコア・シーンに風穴が空いた。

英国の色が強かった当時の日本のハードコア・パンク・シーンのなかで、米国からの影響が目立つNUKEY PIKESは異色だった。そのハードコア・スタイルだけではなく、かの地のバンドの柔軟な方法論をも吸収。ブルースやジャズ、ファンクなどをキャッチーにミックスしたが、ミクスチャー・ロックではなくあくまでもハードコア・パンクとして提示した。92年の夏には、それまでやってきたライヴハウスの数倍の大きさである渋谷CLUB QUATTROでパフォーマンスを敢行。今回初めて全国流通でリイシューされた『NUKEY FREE ZONE』をそのライヴの際に無料配布し、同時期にはビデオ「NUKEY IDEA」を発表した。オープンマインドな姿勢は音楽だけでなく親しみやすい雰囲気のステージにも表れ、おっとりした三橋が〈にゅーきーぱいくす、はじめます〉と言うほのぼのしたオープニングが象徴的だ。日本も80年代初頭から、パンクは不良でハードコアは暴力的というイメージだったが、その伝統に対して飄々と中指を立てたのである。勢いに乗ったまま、94年初頭に2作目『no point』をリリース。当時日本のハードコアでは少なかった政治的/社会的なニュアンスのメッセージをたくさん飛ばしていたことも、特筆すべき点だ。英語でのシンプルな主張から日本語での抽象的な内容に変わっていくが、示唆に富む歌詞の根底には常にポジティヴな精神性が息づいていた。

その一方でバンドは大きくなりかかり、コントロールが効きにくくなっていく。そこで原点に立ち返って足元を見つめ直すべく、自主レーベル・SURGEDRIVEを立ち上げて95年に3作目『consume』をリリース。だが、まるで燃え尽きたかのように、97年12月に行われた千葉でのライヴがラストになった。その模様は水木しげるの手によるジャケで98年に発表された『The SPLIT DESERT』のCDとDVDで堪能できる。また、そんな彼らにインスパイアされたバンドも多く、01年には2種類作られたトリビュート盤『CHIBA NOTORIOUS』が登場。COCOBATやbloodthirsty butchersらが参加するなか、BRAHMANは「NUKEY IDEA」を参考に映像作品「CRAVING」を制作したほか、TOSHI-LOWはステージでの動きにも影響を受けている。

 

NUKEY PIKESのその時々

 

NUKEY PIKES 『NUKEY PIKES + NUKEY IDEA』 YOUTH(1992)

当時のファニーなキャラが表れたポップなミックスセンスが最高だし、トゥーツ&ザ・メイタルズ、ザ・フー、アバのカヴァーも禁じ手なしの姿勢を象徴する。このアートワークでも単純な反原発ソングを歌わなかったのは彼らならでは。VHS作品「NUKEY IDEA」の演奏を中心に編集されたDVDは客入れなしのライヴも観どころだ。

NUKEY PIKES 『no point + new pieces I』 YOUTH(1994)

メジャー・プロダクションに近い音質により、グルーヴィーかつメリハリ十分にパワーアップした音作りが楽しめる。多彩な音楽をミックスするというよりはダシの効いたサウンドで曲はハードコア・パンク色が強まったが、メロディック・パンク・チューンも捨て難い。DVDには91〜92年のライヴが15曲収録され、画質も平均してまずまずだ。

NUKEY PIKES 『consume + new pieces II』 YOUTH(1995)

エンジニアもメンバーに加え、うねる中低音とソリッドなギターが生々しい鮮烈な録音により4人が音と声でぶつかり合う激テンションを真空パック。歌詞が全曲日本語になって和のテイストが増す一方、フガジや海外の激情系カオティック・ハードコアとも共振した。また〈new pieces II〉には92〜94年のライヴ映像が16曲収められている。

NUKEY PIKES 『1991.12.25 in HEAVEN'S DOOR Christmas Notorious Party!!』 NakazawaSK8Society/YOUTH(2002)

オフィシャル・ブートレグ扱いで発表されたものだが、〈それっぽい音質〉が逆に功を奏して粗削りだった初期のパフォーマンスの魅力が伝わってくる。他のリイシュー盤では聴けないジミ・ヘンドリックスのカヴァーやデビューEPの名曲“Carpenter Is God!”も収録。