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テクノ日誌〈2011・初夏〉――リカルド・ヴィラロボスとサージオン

連載
Y・ISHIDAのテクノ警察
公開
2011/08/02   22:12
更新
2011/08/02   22:25
テキスト
文/石田靖博

 

長年バイイングに携わってきたタワースタッフが、テクノについて書き尽くす連載!!

 

某月某日

リカルド・ヴィラロボスとマックス・ローダーバウワー(モーリッツ・フォン・オズワルド・トリオ)によるドイツ・ジャズ名門ECM音源のリミックス『Re:ECM』を聴く。

通称〈生首〉こと『Fizheuer Zieheuer』(2006)以降、ミニマル~クリック界で最大のイノヴェイターとして神扱いされることの多いヴィラロボスだが、実はDJプレイはアナログ・オンリーだったり、機材(『Re:ECM』のインナースリーヴの写真参照)もアナログ・シンセが多数と、結構古風な人だったりして。

だからこそ、この『Re:ECM』もシーンのトップランナー2人による最新リミックス! ……なんてことは微塵も感じさせぬ、真の意味でのリスペクトな姿勢で貫かれた仕上がり。オリジナル音源が録音された頃にジャズが持っていた、ある種の緊張感や神秘的な空気を最新手法で解析&再生したような、2011年に鳴らされるべき〈ジャズ〉なのである。これを生粋のジャズ・マニアの人が聴いたらどうなんだろな?

……と、ボーダーのタンクトップで、ケツをクイクイ振りながらDJする初来日のときのヴィラロボスの勇姿、そして「こ、これがヴィラロボス……」と半笑いで踊ったあの夜の記憶を思いながら、ジャズ喫茶でコーヒーを啜るようにコーヒー牛乳を啜る昼下がりであったのだ。

 

某月某日

サージオンの11年ぶり(!)となるオリジナル・アルバム『Breaking The Frame』を聴く。サージオンと言えば、あの歴史的名ミックス――解脱する前のジェフ・ミルズによる『Mix-Up Vol.2』で“Magneze”がバカ格好良く使われたことで大注目を浴び、当時所属していたレーベル=ダウンワーズと共に大ブレイクした、ジェフ・ミルズ以降のハード・ミニマルの代表選手。当時のテクノ系のクラブでは大鉄板だったなー。

〈サージオン及びダウンワーズ系は2枚使いする〉。これ、〈#90年代テクノあるある〉。

つまり、サージオンの思い出に浸ることは、ハード・ミニマル黄金期(=テクノ黄金期)の甘い記憶に浸ることと同等なのだ。だからテクノがクリック的な流れに傾いたゼロ年代、サージオンはシーンの中心から消えたのだ。そしてハード・ミニマルが復権したいま、サージオンが復活するのは非常に象徴的な事件なのだ。

新作『Breaking The Frame』――リズムは現行シーン対応のシンプルな質感になったとは言え、そこで鳴らされるのはインダストリアル的な重厚さと、マシーナリーなポリリズムと形容したい重層構造なビートが織り成す、まさにハード・ミニマル! さすがサージオン! 男だ!

……ポリリズムと言えば、サージオンは医学生になったマット・デイモン的な堅いルックスながら、あの感動的な東京ドーム公演に参戦(筆者も)するためにわざわざ来日し、その時に出演した〈DOMMUNE〉のラストで当然&ドヤ顔で“ポリリズム”をプレイしたほどのPerfume好き。映画「カーズ2」で“ポリリズム”が使われたことを知った時は、やはり〈ピクサーわかってる!〉とニヤけて小さくガッツポーズしたのだろうか、と思っていたら陽が暮れていた。

 

PROFILE/石田靖博

クラブにめざめたきっかけは、プライマル・スクリームの91年作『Screamadelica』。その後タワーレコードへ入社し、12年ほどクラ ブ・ミュージックのバイイングを担当。現在は、ある店舗の番長的な立場に。カレー好き。今月のひと言→氷室もCOMPLEXも観れなかったこの夏、テクノ警察としては〈SONICMANIA〉〈FREEDOMMUNE〉〈WIRE11〉を巡回予定。当連載でもガサ入れレポートも報告したいと思います(自腹で)。そして大阪クラブ・シーンの現状に怒りと悲しみを、レイ・ハラカミに安らかな眠りを。お疲れさまでした。

 

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