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言葉でポップ・ミュージックを変えたボブ・ディランのカヴァー集によせて

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2012/02/08   18:01
更新
2012/02/08   18:01
テキスト
文/久保憲司


ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、言葉でポップ・ミュージックを変えた偉人、ボブ・ディランのカヴァー集『Chimes Of Freedom: The Songs Of Bob Dylan』について。全73曲中、70曲は今回のために録音されたという本作のなかで、もっとも衝撃的だったのは――。



子供の頃、ビートルズのライナーノーツを読んでいたら〈ビートルズに多大な影響を与えたボブ・ディラン〉と書かれていて、〈偉大なビートルズに影響を与えた師匠みたいな人がいるのか〉とびっくりして急いでボブ・ディランのレコードを買ったら、ギター1本の弾き語りでずっこけました。

ビートルズの師匠だと一生懸命に無理して聴いていたんですけど、その良さはまったくわからず、英語もわからないのに、〈政治的なところが良いんだ〉と無理矢理好きになってました。

ところがある日、『Blonde On Blonde』を聴いていると、すごく気持ちが良いんです。いつまでも聴いていたい、まさにドラッグのような感じ。それはボブ・ディランの音楽というより、ボブ・ディランのメロディーに乗った言葉がとっても気持ち良かったのです。

僕はこの時、〈これが、ボブ・ディランがビートルズの師匠と言われる所以なんだ〉と気付いたのです。

ビートルズは音楽でポップ・ミュージックを変えたけど、ボブ・ディランは言葉でポップ・ミュージックを変えたんだ、と思ったのです。ボブ・ディランの偉大さが初めてわかったのです。

『Blonde On Blonde』はロック史上初めての2枚組のアルバムだったのですが、それは音楽が溢れたから2枚組になったのではなく、言葉が溢れたから2枚組になったのです。

こんな説明で、ボブ・ディランの良さがわかってもらえたでしょうか? 若い人たちには〈ボブ・ディランのどこがいいの?〉〈ただのオッサンじゃん〉と思っている人も多いかと思いますが、騙されたと思って、ボブ・ディランの言葉に耳を傾けてみてください。

英語がわからなくても、耳に気持ちが良いんです。英語圏の人にとっても、ボブ・ディランが何を歌っているのかよくわからない歌が多いそうなんですけど、結局そういうことなのかなと僕は思います。

ボブ・ディランの初心者の方には、このアムネスティ・インターナショナルの活動50年を記念してボブ・ディランの曲をカヴァーしたアルバム『Chimes Of Freedom: The Songs Of Bob Dylan』がベストなんじゃないでしょうか。ボブ・ディランの言葉が一杯に詰め込まれています。

本当にいろんなミュージシャンがボブ・ディランにやられていますね。その部分を感じるだけでも、感動します。僕が気になったところでは、エアロスミスのジョー・ペリーによるブルージーな“Man Of Peace”のカヴァーが格好良いです。ジギー・マーリーの“Blowin' In The Wind”は、お父さんの“Redemption Song”くらい泣けます。もろにボブ・ディラン風に歌っているクイーンズ・オブ・ストーン・エイジも良いですね。やっぱ好きなんでしょうね。70曲はこのアルバムのために録音されていて、そして未発表カヴァーという構成、恐ろしいです。でもボブ・ディランが関われば、これくらいのことは簡単にできてしまうのです。詳しくは皆さん、自分でチェックしてみてください。〈おっ、聴きたい〉というのが、てんこ盛りでしょう。

でも、本作のなかでいちばんの衝撃は、ボブ・ディランによる64年の“Chimes Of Freedom”のセルフ・カヴァーではないしょうか。71歳とは思えない、アイリッシュ・パンクな“Chimes Of Freedom”です。