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街の育てた温かき精緻、その多彩をたっぷり愉しむ 『地方都市オーケストラ・フェスティバル』4楽団の響宴!

公開
2012/03/01   12:17
ソース
intoxicate vol.96(2012年2月20日発行号)
テキスト
text:山野雄大

街がじっくり育ててきた、温かい響きの多彩──日本のプロ・オーケストラの優れた実力を体感していただきたい。日本各地の街で活躍する楽団が年に一回、東京・錦糸町のすみだトリフォニーホールへ代わる代わる登場する春の風物詩『地方都市オーケストラ・フェスティバル』は、1998年から開催され続けてきた。日本のオーケストラの実力が目をみはる勢いで磨かれてきた近年、この企画によって各地の楽団の現在進行形が関東圏にもコンスタントに紹介されてきた意義も大きい。楽団のほうでも、美しく豊かな響きをもつホールでの演奏機会を楽しみにも励みにもしているとは各地の取材でよく耳にする。ところが、昨年のフェスティバルは東日本大震災のためやむなく開催を断念。1年を経て、昨年参加予定だった5団体のうち4団体があらためて参加してくれるのは、復興への困難いまだ多い被災地を強く案じつつも感慨深い。

まずは特別参加の大阪交響楽団(3月18日)。ドイツの歌劇場で長年活躍してきた児玉宏を音楽監督・首席指揮者に迎えて以来、生命力に重厚も宿る充実を磨きつつ、相当のマニアでも聴いたことがないような隠れた名作も果敢に取り上げる姿勢で注目を集めている。しかも彼らの取り上げる秘曲の数々、聴いてみるとどれも面白いから凄い(CD化もされているがそれぞれ秀演だ!)。音楽史の裾野に広がる豊かな森を楽しませてくれるこのコンビ、今回もヘンゼルトのピアノ協奏曲(独奏は凄腕冴える長尾洋史)やプフィッツナーの交響曲第2番など、児玉がぐいぐい引き出してきた楽団の生命力がきっと目を(耳を)ひらかせてくれるだろう。

特別参加の群馬交響楽団(3月20日)は、本フェスティバルで全回連続参加の常連だ。一昨年から首席指揮者・芸術アドバイザーに鋭い耳と熱い心の沼尻竜典を迎えて新時代へ踏み出した群響、今回はオーストラリア出身の俊英、キャンベラ響の音楽監督・首席指揮者をつとめドイツ各地の歌劇場でも活躍を拡げるニコラス・ミルトンを指揮に迎えての東京公演、若い指揮者の覇気に触れる機会が楽しみだ。ラヴェルが遠い異国への憧れを絶妙な響きにこめた歌曲集《シェエラザード》を、麗しき中嶋彰子のソプラノ独唱で聴くほか、メインのベルリオーズ《幻想交響曲》など、音楽のめくるめく色彩を重視したプログラミングで楽団の精緻を響かせてくれるはず。豊かな幻想の旅を楽しもう。

セントラル愛知交響楽団(3月25日)は全曲が現代作品という攻めのプログラムで挑む。常任指揮者の若き齊藤一郎が積極果敢に牽引する楽団、生まれたての響きがひらく鮮烈な驚きで躍進のパワーを堪能させてくれよう。メインはバッハの鍵盤曲を鬼才・野平一郎が編曲した《ゴルトベルク変奏曲》管弦楽版。才気溢れる着想が時空を超えた幻想を拡げてくれる創造的編曲の傑作だ。気鋭の木下正道による新作《問いと炎II》は、鈴木俊哉(リコーダー)多井智紀(チェロ)と現代音楽界の俊英ソリスト陣を迎えるのも楽しみだし、名古屋を本拠に活躍する水野みか子の《レオダマイア》は、野村峰山(尺八)の象徴する男性と野村祐子(箏)が表す女性との冥府の逢瀬、ワーズワースの詩から発想を広げた豊穣に期待。現代の感性と出逢う喜びをぜひ。

広島交響楽団(3月27日)は音楽監督・常任指揮者として楽団を豊かに磨く名匠・秋山和慶の指揮で、詩情と雄弁を豊かに融かした英国音楽の傑作たちを披露。秋山と組む時とりわけ誠実な響きに美しい力感を広げる広島響、楽団の誇る首席チェロ奏者、マーティン・スタンツェライトが独奏を弾くエルガー〈チェロ協奏曲〉からその美質を楽しめるだろうし、巨匠ブリテンの多才を味わえる2作〈イギリス民謡組曲《過ぎ去りし時‥》〉《シンフォニア・ダ・レクイエム(鎮魂交響曲)》、特に後者は原爆の被害から立ち直った平和都市広島から東日本大震災復興への祈りをこめて捧げる選曲とのこと。楽団の真摯な志を会場で深く共有したい。

各公演とも開演30分前からプレトークがあるので、来場は少しお早めに。他に楽員による室内楽コンサートなども開催される(セット券購入者は公開リハーサルと併せてご招待あり)。全公演、響きの多彩と豊穣をたっぷりとご堪能いただきたい。

『第15回 地方都市オーケストラ・フェスティバル』
会場:すみだトリフォニーホール
http://www.triphony.com/

3/18(日)15:00開演
大阪交響楽団 児玉宏(音楽監督・首席指揮者)長尾洋史(P)
【演奏曲目】グラズノフ:抒情的な詩 作品12/ヘンゼルト:ピアノ協奏曲 ヘ短調 作品16/プフィッツナー:交響曲第2番 ハ長調 作品46

3/20(火・祝)15:00開演
群馬交響楽団 ニコラス・ミルトン(指揮) 中嶋彰子(S)
【演奏曲目】ボロディン:歌劇『イーゴリ公』より《だったん人の踊り》/ラヴェル:《シェエラザード》/ベルリオーズ:幻想交響曲

3/25(日)15:00開演
セントラル愛知交響楽団 齊藤一郎(指揮) 鈴木俊哉(recorder) 多井智紀(vc) 野村祐子(箏) 野村峰山(尺八)
【演奏曲目】木下正道:「問いと炎II」リコーダー・チェロとオーケストラの為の(世界初演)/水野みか子:レオダマイア〜尺八、箏と管弦楽のための〜(管弦楽版世界初演)/J.S.バッハ(野平一郎編曲):ゴルトベルク変奏曲BWV988(2010年11月19日初演)

3/27(火)19:00開演
広島交響楽団 秋山和慶(指揮) マーティン・スタンツェライト(vc)
【演奏曲目】エルガー:チェロ協奏曲ホ短調 作品85/ブリテン:イギリス民謡組曲「過ぎ去りし時‥」 作品90/ブリテン:シンフォニア・ダ・レクイエム 作品20

★各公演とも、開演30分前よりプレ・コンサート・トークあり
*4公演セット券ご購入者を、室内楽コンサート&公開リハーサルにご招待!

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