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第32回――ザ・スターリン

連載
その時 歴史は動いた
公開
2012/03/14   00:00
更新
2012/03/14   00:00
ソース
bounce 342号(2012年3月25日発行)
テキスト
文・ディスクガイド/岡村詩野


スターリン_A



昨年8月15日。〈8.15世界同時多発フェスティバルFUKUSHIMA!〉で、遠藤ミチロウはザ・スターリン246のリーダーとしてステージに立っていた。そこで歌われた『虫』のなかで何度も叫ぶ。〈原発なんて要らない!〉。だが、彼はいまから30年以上も前からすでに世の中の不条理を吐き出し、戦っていたのだ……。

80年、福島出身でフォーク・シンガーとしても歌っていたことがあるという遠藤、金子あつし、乾純の3人でソ連(当時)の独裁者から名前を取ったザ・スターリンを結成。同年9月に最初のシングル『電動コケシ/肉』をリリースする。70年代から音楽活動をしていたとはいえ、当時遠藤はすでに30歳目前。決して若いデビューとは言えなかったが、ステージから豚の頭や臓物を投げるような衝撃的なパフォーマンスも話題となりはじめた〈その時〉、日本のパンク・シーンの歴史は大きく動くことになるのだった。

82年、メジャー初作『STOP JAP』を発表。演奏は硬派なハードコア・パンクだったが、遠藤が綴る歌詞は知的でどこかしら人を喰ったような言葉使いが印象を残す。過激なイメージとは裏腹に、思慮深く穏やかな人柄として知られる彼だが、石井聰亙監督の映画「爆裂都市 BURST CITY」(82年)に役者として出演したほか、文章や詩が注目されたりと、他のパンク・シーンの面々とは一線を画すマルチな存在感が際立っていた。ザ・スターリンはその後メンバー・チェンジを繰り返しながらアルバムをリリースしていったが、85年2月21日に行なわれたギグを最後に解散。以降、遠藤はソロに転じていく。しかしながら、87年にビデオスターリンを結成。映像作品のみをリリースするコンセプトのバンドとして注目を集めたが、程なくして今度は89年には新たなメンバーと共にスターリン(定冠詞なし)をスタートさせる。が、93年にはふたたび解散……と慌ただしい活動が続くのだった。

その後も折に触れてスターリンの名前で再結成しているが、アコースティック・ギターのみでのライヴを行なったり、若手たちと共演を重ねるなど活動そのものは至ってフレキシブル。また、まったく衰えることのないエッジーでアナーキックな彼の姿勢は後輩世代にとって憧れの対象となっていく。遠藤が還暦を迎えた一昨年には2種のトリビュート・アルバムも登場。そして昨年、最初にも書いた、大友良英や詩人の和合亮一らと共に脱原発の思いを込めた〈プロジェクトFUKUSHIMA!〉を立ち上げてみずからステージに立った。遠藤ミチロウ、今年62歳。歴史をいまなお動かしている。

 

ザ・スターリンのその時々



ザ・スターリン 『虫』 クライマックス(1983)

83年に発表された3作目。現在も遠藤がライヴで取り上げているタイトル曲や“天プラ”をはじめとした代表曲が多く収録されているが、それまでになくハードコア・パンク的なものが多く、少ない言葉を叩き付ける歌詞と合体した〈短句ロック〉と言わしめたりも。丸尾末広による忍者のイラストがあしらわれたピクチャー・ディスクも話題に。

 

ザ・スターリン 『Fish Inn』 クライマックス(1986)

ザ・スターリン名義としては最後のアルバムとなる、通算4作目。ヒゴヒロシ(Chance Operation)、オノ(アレルギー)らがサポートで参加していることもあってか、『虫』のように短い曲はほとんどなく、重く太くねじれた演奏が緊迫感を伝えている。86年にマテリアルのビル・ラズウェルらが手を加えた形でリイシュー。

 

遠藤ミチロウ 『飢餓々々帰郷』 徳間ジャパン

初期ザ・スターリンのみならず、解散〜再生後のスターリン名義、アコギを激しく掻き鳴らしたソロ曲などの音源を集めた4枚組(1枚はDVD)。まさしく〈遠藤ミチロウの軌跡〉といった内容だ。演奏形態やアレンジは異なれど、社会と対峙しながらその矛盾や不条理を訴えかけていくという彼の主義主張は一貫していることがわかる。

 

ザ・スターリン 『I was THE STALIN 〜絶賛解散中〜完全版』 徳間ジャパン

85年2月21日、東京・調布の大映撮影所で行なわれたザ・スターリンの解散ライヴを完全収録した2枚組(85年に発表された『FOR NEVER』に未発表曲11曲を追加し再マスタリング)。確かに、最後に相応しいステージだが、この異様なテンションの高さは解散云々に関係なく遠藤自身の表現欲求が頂点に達していたからだろう。特に、新たに追加されたうちの1曲“豚に真珠”は白眉だ。

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