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僕たちも歌わなければならない――ソカバンの新作に寄せて

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2012/04/04   17:59
更新
2012/04/04   17:59
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文/久保憲司


ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、言わずと知れたソカバンこと曽我部恵一バンドのニュー・アルバム『曽我部恵一BAND』について。いまは歌う状況ではないのかもしれない。それでも彼らは日常を生きる人のためのロックンロールを歌う。そして僕たちも、歌わなければならないのだ――。



日本でいちばん好きなバンドはソカバンだ! 何回観ても飽きない。“テレフォン・ラブ”は何百回聴いたかわからないけど、毎回嬉しくなる。

ソカバンを聴いていると、モダン・ラヴァーズのような青春を思い出してしまう。

英語がわかるようになって、モダン・ラヴァーズのほとんどの歌が、女性にモテない男性の歌でびっくりした。

モダン・ラヴァーズは女性というか、世の中に完全に受け入れられない男の歌で、その情けなさといったら完全にロックじゃないというか、いまのオタクを先取りしていたというか、それまでのロックにはなかったものだったんだと思う。その衝撃はいま聴いても凄い。モリッシーはニューヨーク・ドールズが大好きだったというが、ニューヨーク・ドールズには女々しさが一切ないので、スミスの基本となったのはモダン・ラヴァーズなんじゃないかという気がしてならない。

だからソカバンはモダン・ラヴァーズじゃないんだけど、僕が子供の頃、モダン・ラヴァーズに感じていたあの青春をいまもやってくれているバンドだと思うのだ。モダン・ラヴァーズの例で言うなら、そんなバンドはいない。妄想なのだ。でも、そんな僕の妄想の青春バンドをやってくれているのがソカバンだと思っている。

フィーリーズもそうだけど、本当に何の構図も考えず、ただメンバーが立っているだけのジャケット――そういうのに、僕は青春を感じていた。そして、曽我部くんも同じことを思っているのかなと思っていた。ソカバンのジャケットは本当にメンバーが4人立っているだけ。

ソカバンは永遠にずっとこうしたアルバムを作っていくのだろうと思っていた。いつまでも魔法のバスに乗って。たとえ終着点がないとしても、青春を歌い続けるバンドだと思っていた。

そんな、ソカバンの新曲“満員電車は走る”を聴いて涙が出た。曽我部くんは怒っているんだなと思った。“満員電車は走る”はFLYING DUTCHMANの“humanERROR”と対を成す曲だと思う。FLYING DUTCHMANのように、明確な抗議も、呼びかけもしていないけど。

バイトの面接はだいたい
ん~、十分くらいで終わる
資格性格通勤時間
そうたぶんそれがあたしの全て(“満員電車は走る”)

とみんなの日常を淡々と歌うだけである。そして、満員電車は1億2760万の叫びを切り裂いて、毎日走っていくだけであると歌うのだ。

そうだよ、あの時、4基の原発がメルトダウンを起こそうとしてた時、みんなは何をしていた? 文句も反対も、何もしていなかったでしょう? みんな、自分たちが生まれ育った日本はどうなるんだという胸が張り裂けそうな気持ちを押さえながら、静かに日常を生きていたんじゃないかい? あの時、原発は安全だとか、反対だとか、そんなこと言っていたかい?

本当のロックとは“満員電車は走る”のように、こうして毎日毎日、日常を生きる人のために歌わなければならないんだ。

〈9.11〉〈3.11〉で人生が変わったとか、そんなに軽々しく言っちゃならないのだ。そんなこと言わなくってもわかるよ。ソカバンのジャケットはカラー写真から、白黒に変わった。場所も空の下から、ステージ袖に変わった。

彼らは歌おうとしている。もう歌うような状況じゃないのかもしれないけど、彼らは歌おうとしている。歌い続けようとしている。その葛藤がこのアルバムなんじゃないだろうか。そして、僕たちも歌わなければならない。

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