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さまざまな年代のサイケ感が混在するスピリチュアライズドの新作

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2012/04/18   17:59
更新
2012/04/18   17:59
テキスト
文/久保憲司


ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、ロック史に残る名盤『Ladies & Gentlemen We Are Floating In Space』の完全再現ライヴに触発されて完成したというスピリチュアライズドのニュー・アルバム『Sweet Heart Sweet Light』について。楽曲の大切さに目覚めたのか、本作にはシガー・ロスやアーケイド・ファイア、カンなど、さまざまな年代のサイケデリック・ミュージックが混在していて――。



またしてもジェイソン・ピアース、凄いアルバムを作ってしまいました。ソニック・ブーム派だった自分としてはちょっと悔しいんですけど。自分は絶対ソニック・ブームのほうが才能あると思ってたのに、完全にジェイソン・ピアースのほうが天才ですね。

テキいまのところのソニック・ブームの最終評価って、〈良いレンタル・スタジオ作ったよね〉って感じですもんね。MGMTやパンダ・ベアのプロデュースやミックスをしたというのは誇り高いですが。

今作『Sweet Heart Sweet Light』はロック史に残る名サイケデリック・アルバム『Ladies & Gentlemen We Are Floating In Space』の完全再現ライヴに影響されたそうです。〈今回のアルバムはポップな曲が多い〉とも言っているので、『Ladies & Gentlemen We Are Floating In Space』を再現しながら、楽曲の大事さに目覚めていったということでしょうか。

数々の名曲を作ってきた人に〈お前は何を言っているんだ〉という感じですが、たくさんのコーラスや弦楽器と共にアイスランドでやったアコースティック・ライヴを観ていると、ジェイソン・ピアースの楽曲の素晴らしさに心打たれるんです。あれは自分でも、自分の楽曲の素晴らしさを再認識したんじゃないかと思うんですが、どうでしょう。

今回のアルバムで、特筆することは2つです。

ひとつは、シガー・ロスやアーケイド・ファイアのような現代のサイケデリックを採り入れているところじゃないでしょうか。アイスランドのレイキャビックで録音された曲もあるみたいで、いいなと思いました。2曲目“Hey Jane”なんかびっくりさせられました。シガー・ロスやアーケイド・ファイアが好きな人にも聴いてもらいたいです。

もうひとつは“Hey Jane”もそうなんですが、“I Am What I Am”“Mary”が、もろにダモ鈴木な感じなんですよね。カンぽい感じがかっこいいです。こういうところも今回は〈楽曲のアルバム〉なのかなという感じがするんですよね。いままでは自分が生死を彷徨ったりして、毎回自分というものに必至だったのが、ちょっと自分を振り返る余裕ができたアルバムなのかなと思っています。

ドラッグをやると、普通は自分を俯瞰する恐怖感とか、自分が自分じゃなく、他人のように思える恐怖感があって、それで自分を客観視できたりするんですが、ジェイソンはずっと自分の内面ばかりに深く入り込んでいったのですかね。

ジェイソンがダモ鈴木さんの感じをやっているのが嬉しいです。“Mary”は“Mary, Mary So Contrary”の感じだするとマルコム・ムーニーなんですが、まあ、いいです。スピリチュアライズドは、カンみたいな感じはやっていなかったので、今回のアルバムはこのへんに〈おっ!〉と思いました。

僕は、世界最高の音楽はダンス・ミュージックとサイケデリックだと思っているので、皆さん聴いてみてください。