ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、ブルックリン発のパンク・バンド、メンのニュー・アルバム『Open Your Heart』について。その荒削りなサウンドは、〈とにかく俺たちはやり続けるしかない〉ということを教えてくれる——。
今年の〈フジロック〉は本当に素晴らしかった。
天気がいいというだけだったのかもしれないが、僕はたくさんの人たちを観ながら、毎週金曜日に行われている官邸前抗議運動への批判の答えは〈フジロック〉みたいなフェスにあると思った。
みんながいろんな思いを持ち寄って、3日間だけの王国を作る感じ。それは毎週金曜日にいろんな人たちがいろんな思いを持って集まる、官邸前抗議運動に似ていると思った。
官邸前抗議運動に対する批判には、〈人が集まって抗議して何の効果がある?〉〈あんなもの運動家たちが組織したもので、本当の市民運動ではない〉などというのがあるが、そう言う人たちは〈フジロック〉に来たらいいと思う。
〈フジロック〉が商業主義っていう奴がいるけど、お金だけであんな王国が作れると思っているのだろうか?
たくさんの人が集まってバカ騒ぎしているだけ? そんなん言い出したら、会社かって、国家かって、学校かって、全部そうやろう。
僕が夢見るのは、ああやってフェスに来た人たちが、日常から離れ、そこで得た自由とか、そんなものを少しでも実生活に持って帰れたらいいのにな、ということ。
60年代にヒッピーたちがフェスをしようとしたのはそういうことだったんだと思う。でも、あの頃はもっといけると思っていたから、フェスを実生活にしようなんて無謀なことを考えていた。
そういうのが無理だと気付いたのが70年代以降だったわけだけど、その失敗を感じながら、僕がいま思うのは、フェスのあの感覚をどれだけ自分たちの実生活に反映できるかということ。それがいまの革命なのだ。
官邸前運動も同じ。毎週金曜日、仕事や学校帰りにみんなが集まって抗議して、日常に戻っていく。戻る時にあそこで感じた正義などを自分の実生活にどう取り込んでいくかが、これからの革命なんだと僕は思う。
60年代に僕たちは負けたかもしれないけど、ちゃんと学んだということだ。今度こそ本当に市民革命が起こるかもしれないと感じている。
〈ロックは死んだ〉という名言を吐いたジョン・ライドンですが、この言葉ももともとは5月革命に多大な影響を与えた状況主義者のギー・ドゥボールの〈映画は死んだ〉のパクりなわけなんで、この言葉通りに考えてもらったら困る。そうそう、ドゥルッティ・コラムの有名な紙ヤスリのジャケットもギー・ドゥボールの著書「メモリーズ」のパクリです。みんな革命を望んでいるということでしょう。
違う、違う。〈ロックは死んだ〉という話だ。状況主義でいう〈ロックは死んだ〉がどういう意味なのかは皆さんに調べてもらえればと思いますが、とにかく俺たちやり続けるしかないんだよ、ということなんです。まさにそんなロックがメンの2作目『Open Your Heart』です。クラウド・ナッシングスほどには〈SxSW〉で話題にならなかったけど、メンもちょっと話題になりました。ASIAN KUNG-FU GENERATIONのゴッチさんも〈いいんじゃない〉と言っておられました。
ジョン・ライドンの〈ロックは死んだ〉という言葉だけを捉えるとメンみたいな古めかしいバンドは完全にダメなんでしょうけど、聴いているとなんか感動するんです。そして、〈それは彼らには魂があるから〉みたいなことを言ってしまいそうになるんですが、なんでこんなにいいのか、よくわからないんです。
ダイナソーJrとか、ハスカー・ドゥとかがやっていたことと何も変わらないです。アジカンのゴッチさんがプッシュするDr.DOWNERなんかといっしょです。ロックだからいいとしか言えない。この感じわかるかな? はっきり言うと、みんなロックやっているようで、実際にロックやっている奴なんて少ないんですよ。
〈今時こんなロックを〉って言われるかもしれないけど、それ以外に何ができる?ってことですよ。官邸前に毎週金曜日抗議しにいくように、ギターを持って歌うしかないんですよ。もうこういう戦いは60年以上続いているんですよ。そして、何も変わってないですよ。茶髪でもお店で働けるようになったとかそんなくらいです。もしくは自由を得ようと、フリーターとしてがんばろうとしたら、ただ搾取される安い存在になっただけなのかもしれません。でも、昔より世の中は良くなっていると思いますよ。〈フジロック〉に4万人も、官邸前に10万人も集まるようになったんですよ。
メンもきっと、ダイナソーJrよりもハスカー・ドゥよりも進化してます。サイケっぽいところがあるのも良いです。
