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コンピューター・マジック――その音は70sのポケット・コンピューターのよう!?

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2012/12/12   17:58
更新
2012/12/12   17:58
テキスト
文/久保憲司


ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、ブルックリン発の宅録ガール、コンピューター・マジックの日本デビュー・アルバム『Scientific Experience』について。そのアナログなサウンドは、70年代のポケット・コンピューターのように(!?)わかりやすくて――。



タブレット端末で遊んでいると、僕の子供の頃のおもちゃ――スパイ手帳が実現したような気がして嬉しくなる。

スパイ手帳とは、それひとつで何でもできるというふれこみのおもちゃだ。火も起こせるし、汚い水も濾過して飲める。暗号も解けるし、ピストルも撃てる。ジェームス・ボンドだったら本当にそういうことができるのだろうが、おもちゃなので、何となくそういうふうなことができるという感じだった。

しかし、タブレットは本当にもうジェームス・ボンドの世界ですよね。電話もかけられるし、TVも観れるし、音楽も聴ける。いや、もう作れたりもする。本物のスパイ手帳が5万円以下で手に入る感じなのだ。

そんな何でもできるスパイ手帳なんだが、僕は近未来的なデザインのタブレットより70年代のデザインで作られた白黒でしか見れないタブレットのほうが好きだ。近未来なデザインに写るカラーの写真を見てるよりも、レトロな70年代のデザインに写るコピーのような写真を見てると何か嬉しくなってしまう。最近のタブレットを動かしていて、ちょっと動作がおかしいと〈すいません、なんかやり方間違いましたか〉と謝ってしまうのだが、70年代チックな白黒のタブレットが動かなくなっても、〈あれ、どうしたの。がんばりや〉と余裕こける。

US北部、人口わずか 1,560 人の町から、 DJ/デザインの大学に通うためにNY市へと越してきたダニエル・ジョンソン。DANZとして知られる21歳のDJ兼ブロガーのソロ・プロジェクト、コンピューター・マジックのアルバム『Scientific Experience』を聴くとまさにこんな気分になるんです。ジェイムズ・ブレイクやグライムスを聴いているともう完全に〈いま〉みたいな感じでひれ伏してしまうのですが、コンピューター・マジックのアナログで、ディスコティークで、インディー・ロックなメロディーを聴いていると、僕はなんだか気持ち良くなってしまうのです。70年代の古いポケット・コンピューター・ゲームをコレクションしたいみたいな感じにかられるのです。〈新感覚なベッドルーム・ポップ・エレクトロ〉と言われるのがよくわかります。ちょっとスーサイドみたいなところもあるの、いいですよね。あの70年代のNYパンクが生まれた頃の、マンハッタンの匂いがします。この頃はブルックリンの匂いが強かったんですが、住むのにお金がかかりすぎて死んでいたマンハッタンも、不景気で復活しつつあるんですかね。

ダンジーがどういう機材を使っているのかわからないですが、僕も70年代のレトロな機材を買って、ダンジーみたいな音楽をやりたいなという気にさせられます。

でも、本当は“The End Of Time”のPVで、宇宙服を着てNYをさまよい歩くダンジーの姿に惚れてしまったんですけどね。来日もしていたんですね。観たかったです。僕のいまの夢は、ダンジーと宇宙服で渋谷の街を歩くことです。

グライムスもコンピューター・マジックもやっていることは同じなんでしょうが、カナダのニール・ヤングやジョニ・ミッチェルがはじめは何をやっているのか理解できなかったみたいに、カナダ人のグライムスもちょっと難しいですよね。でも、アメリカ人のコンピューター・マジックは、一見は難しそうなスーサイドやラモーンズ、テレヴィジョンがすぐに理解できたように、なんかわかりやすいですよね。そういうところが好きです。

僕はグライムスよりも、完全にコンピューター・マジック派です。このアルバムには入ってないのが残念ですけど、ストロークスのカヴァーがとってもキュートです。