Nellが原宿のアストロホールで単独公演を開催する。――この知らせを聞いたとき、彼らのことを知る人ならば、〈伝説の一夜になる〉と思った人も多かったのではないだろうか。1999年に結成され10年以上のキャリアを誇るNellは、繊細なメロディーラインと歌声、叙情的な音世界で韓国を代表するロック・バンドとして活動を続けている。その歩みの過程で名前を知ったファンももちろん多いと思うが、同じ事務所に所属するアイドル・グループ、INFINITEのリーダー＝ソンギュが憧れのアーティストとして彼らの名前を挙げ、ソンギュのソロ作『Another Me』の制作に携わっていたことも記憶に新しい。
チケットはもちろんソールドアウト。〈この日を待っていた〉〈どんなライヴになるのだろう?〉という期待がホール全体に広がるなか、照明が落ちるとまず起こったのはオーディエンスからの拍手と大歓声。メンバー登場後、少し間を置いたところで美しいピアノのイントロが始まり、1曲目“After Glow”へ。マイクに手をかけて囁きかけるように歌うキム・ジョンワンの声と幻想的なサウンドが、スッと心のなかにしみこんでいく。じっくりとその世界観を感じていたところで、続く“Beautiful Stranger”の切なくも重厚なサウンドに、ファンの熱が増す。
ここで「初めまして。こんばんは。みなさんに会えて本当に嬉しいです。楽しい時間になってください。私たちはバンド、Nellです」と、ベースのイ・ジョンフンが日本語で挨拶。観客から声援があがったところで、「1、2、3、4!」とカウントとともに歓喜の声が響き渡ると、柔らかい雰囲気のミディアム・チューン“幽霊の歌”、ゆったりとした導入部分を経て途中から一気に開放感を増すドラマティックな展開の“午後との対話”が登場。オーディエンスのボルテージはさらに上がっていく。
ヴォーカルのジョンワンの英語でのMCを経て“Tokyo”へ。ここ東京で披露される“Tokyo”に、感動を覚えた人も多かったのでは? 開放的なサウンドにどんどんと気分が高まっていき、力強くスタートした“Promise me”で会場はさらに躍動感に溢れる。観客の手拍子も演奏の一部のような気がするほどの一体感が心地よい“Cliff parade”で圧巻のパフォーマンスを見せ、続く“Standing in the rain”の導入部分で、オーディエンスの作り出すリズムの上に幻想的な演奏&歌声が合わさり会場を美しく包み込んでいた様子もまた、印象的だった。
日本語を勉強中というベースのジョンフンの日本語でのMCをはさみ、開放的なギターと高らかに響くヴォーカルが胸を打つ“White Dwarf”へ。曲が終了したあともその鮮やかな音世界に心を奪われていると、ライヴの終わりを告げるMCが……。名残しそうな声があがるなか、本編ラストの“信じてはいけない言葉”では、進むにつれて激しさを増す演奏に、オーディエンスも応えていく。この時間がずっと続けばいいのに――そんな風に思っていた人も多かったのではないだろうか。
鳴り止まない拍手と声援のなか、メンバーが再びステージへ。会場に集まったファンへ感謝の気持ちを述べ、演奏されたのは“記憶を歩く時間”。ジョンワンが歌いはじめると歓声があがり、曲が進むにつれてその美しく儚い世界観を持つ“記憶を歩く時間”を生で体感しているという事実に改めて鳥肌がたった。楽曲が終わったところで、ヴォーカルのジョンワンを中心にメンバーがなにやら相談を……。ここで、会場の雰囲気が良いので、当初の予定から“Cliff parade”に楽曲を変更するという嬉しいサプライズが! オーディエンスの小気味よい手拍子のなかスタートした“Cliff parade”は、よりアツく高らかに響き渡り、終わったあとに見せたメンバーの満足げな表情もまた印象的だった。
幸せな時間はあっという間というが、今回のライヴの時間を、もっともっと早く感じたファンも多かっただろう。ショウケースということで約1時間ちょっとという〈伝説の一夜〉は、訪れたファンにとっても忘れられない濃密な時間になったに違いないし、アンコール後しばらく鳴り止まない拍手と歓声がそれを物語っていた。韓国の音楽はK-POPというジャンルでひとくくりにされることが多いが、美しく切なく、時に鮮やかな光を放つジョンワンの歌と、UKロックを思わせる彼らの繊細な音世界は、国境を越えて多くのリスナーから支持されるはず。Nellからますます目が離せない日々が続きそうだ。
Photo by yuki kuroyanagi
〈セットリスト〉
1.After Glow
2.Beautiful Stranger
3.幽霊の歌
4.午後との対話
5.Tokyo
6.Promise me
7.Cliff parade
8.Standing in the rain
9.White Dwarf
10.信じてはいけない言葉
アンコール
11.記憶を歩く時間
12.Cliff parade
■Nell 「The Day Before」
