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tofubeats

連載
360°
公開
2013/05/01   17:59
更新
2013/05/01   17:59
ソース
bounce 354号(2013年4月25日発行)
テキスト
インタヴュー・文/出嶌孝次


tofubeatsがレポートする失われた10年



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「今回アルバムを出すにあたって人生で初めてくらいの量の取材を受けたり、ラジオに出たりして、本当に遠いところに来てしまった……と、ここ数週間は感じることしきりです。自分の知っている人がなぜか僕の曲を聴いていたりするので本当にびっくりします。あとアーティストとして扱ってもらえるようになりつつあるのも変な感じで。ただそれは東京にいるときの話で、普段はやっぱり神戸にいてのんびり過ごしていますので、そこらへんはメリハリができていいかなと思っています」。

そんな奥ゆかしい言葉とは裏腹に、この〈アーティスト〉をとりまく状況はソワソワをどんどん拡げつつある。インターネット経由で台頭し、リーガルもイリーガルも取り混ぜたコンスタントな自作リリースと、多岐に渡るプロデュース/リミックス仕事を展開してきた神戸のトラックメイカー、tofubeats。本誌で「tofubeatsの棚の端まで」も好評連載中の彼が、ついにフィジカルのファースト・アルバム『lost decade』をリリースするに至ったのだ。昔メールでインタヴューした際には〈音楽を仕事にするかどうかはわからない〉と綴っていた10代も、昨年に一人暮らしを始め、この春には大学を卒業したばかりだ。

彼の名をここまで大きくしたのは、オノマトペ大臣をフィーチャーして2011年末にアナログ・リリースされたメランコリックなシティー・ラップ“水星”に違いない。ただ、それに先駆けては、同じく大臣との“BIG SHOUT IT OUT”(2010年)やMaltineのコンピで披露された“朝が来るまで終わる事の無いダンスを”(2010年)、また“touch”(2011年)のような佳曲もあったわけで、彼にとってはどのタイミングが現在の意識を導く節目だったのだろうか。

「体感として大きなきっかけというのは全然ないんですよね。僕は連続的に日々の記録としてずっと部屋で音楽を作っているだけで、それぞれがそのときの自分の状況みたいな感じがします。ただ今回のアルバムに入れている“水星”と“touch”は自分的にはけっこう節目でした。“水星”は世の中のいろんな方々に知っていただくきっかけとして今でも機能していると思いますので、どちらかというと外向きな意味での節目ですが、“touch”に関しては、リミックス仕事を多くいただき、ソロ曲を作る意味ってそんなにあるのかなと思ってた時に——いまも思う時はあるのですが——こういうのが自分は作れるのかーと発見できた曲でもあります。Bandcampでリリースして海外の方からけっこう反応があったというのもありますね。書き下ろしの曲だけでアルバムを作りたかったのですが、この2曲は自分の中でも好きなものだったので収録しました」。

アルバムの制作はその引っ越しと時を同じくしてスタートしたという。先行シングルにあたる“夢の中まで”に迎えられたのはラッパーのERA。tofubeatsは彼の“Stone”をリミックスした縁もある。

「自分のファーストで自主制作で……となると、本当に誰にも指図されずにいろいろできるタイミングなのでそれを大事にしたいという部分がありました。とりあえず呼びたい人に声をかけてやりたいことをやるよう意識しました。神戸で一人で考えてやることが東京のスタンダードと微妙にズレていることはもうわかっていたので、思ったことをきちんと形にすれば絶対メインストリームの人には違和感のあるものが出来上がるな、といった意識はありました」。

そうして生まれた『lost decade』は、ちょっとハッとするほどの瑞々しい躍動感とナイーヴな日常性が詰め込まれた作品となっている。冒頭からスコーンと飛び出してくるのは、仮谷せいらがスポーティーな溌剌ヴォイスを響かせるTPDマナーの“SO WHAT!?”だ。PUNPEEを伴った青春珍走歌“Les Aventuriers”、SKY-HIのスキルフルな語り口が鋭いトラップ“Fresh Salad”、オノマトペ大臣とのフットワーキンな“m3nt1on2u”などゲストを迎えた曲が目立つ部分もありつつ、彼らしいUKガラージなどインストも充実。作中のヴァラエティーは、まさにtofubeatsの棚の端から端までを見渡せるほどだが、甘やかな倦怠を帯びた夢色のシンセがそれらをゆるやかに結びつけている。

「やはりアルバムの制作時期にいちばん影響されたのはインターネットを中心とした新しいムーヴメントで、トラップや○○ウェイヴの流れなどは看過できないものでした。BandcampやSoundCloudで大量の音楽を経由しつつ、新譜もわりかし聴いていました。パラ・ワンはじめマーブル周辺やトロ・イ・モワとかは特によく聴いたかもしれません。あと森高千里氏やTPD関連、宇多田ヒカル氏などをまとめて聴き返したりもしてたような気がします」。

先述の“夢の中まで”を折り返し点にして後半はぐっと落ち着いた内省的なムードに。圧倒的なハイライトになるのはデバージを想起させる展開の“No.1”。tofu本人の歌ったものは既発だが、ここでは芯のあるG.RINAの歌唱を得た最高のリメイクになっている。

「正直に申し上げて自分のヴォーカルがやっぱり好きじゃない部分があり、あとすごい音痴なので後からの作業が面倒なこともあって、外にお願いするのが良いっていうのを第一に、自分はところどころで登場しました。例えば“No.1”なんてG.RINAさんの歌を聴いたら僕のヴァージョンなんて聴けません(笑)!」。

そして本編ラストは「同世代のヴォーカリストと表題曲を作りたい」という理由も相まって、もともとファンだという南波志帆の無垢な声が躍る“LOST DECADE”。意味ありげな表題についてはこう説明する。

「もともとMaltine周辺の友達DJとやっていたイヴェント名なんです。tomad、DJ WILDPARTY、okadadaと僕の4人で〈lost decade〉。命名はtomadなのですが、86〜90年生まれの僕ら4人をいい感じに表現したタイトルだなーと以前から好きな言葉で、勝手に引用して後から許可を貰いました。ちなみに僕は中1でインターネットを始めて音楽を調べだし、中2で制作を始めていて、中高大一貫の学校に通っていたんです。音楽をちゃんと好きになって10年経っていることにリンクしているのも、タイトルにした理由の一つです。ちなみにアルバムのイントロはそういう経緯も込めて、イヴェント〈lost decade〉にて楽曲“LOST DECADE”をかけたときの録音になってます」。

総じてめちゃくちゃポップであると同時に、本人が趣味を追求した結果なのも素晴らしいが、本作で重視されているのは〈プライヴェートなものだけど、人に聴いてもらうために作った〉というバランスだ。

「どの仕事でもそうですが、アンダーグラウンドすぎてもダメだし、人に聴いてもらうことを意識しすぎてもダメで、そういうことは最後までずっと考えていました。エゴとポピュラリティーのバランスというより、〈その時にやりたいことをやる+いろんな人に聴いてほしい〉という2つの感覚をいっしょに叶えたい、という悩みだった気がします」。

なお、そんな意識の産物たるリミックス仕事をまとめた『university of remix』もアルバムと同時にリリースされている。

「高3の時にCD-Rで出した『high-school of remix』があったのでそれを踏襲した感じです。高校が『high-school of remix』、大学が『university of remix』、それで中高大の10年をまとめたのが『lost decade』っていうふうに、わりかしキレイにまとまって満足しています(笑)」

次の10年に向けて、tofubeatsの新しい日々は始まったばかり……だが、その成果はまたすぐに報告されることだろう。



▼tofubeatsのリミックス集『university of remix』(ソニー)。

電気グルーヴ“MUD EBIS”のエクスクルーシヴ・リミックスをはじめ、小泉今日子、ねごと、東京女子流、FPM、さよならポニーテール、佐々木希、SOUL'd OUTらの14曲を収めた必携盤ですよ!

 

▼関連盤を紹介。

左から、ERAの2012年作『JEWELS』(rev3.11)、東京パフォーマンスドールのベスト盤『GOLDEN☆BEST 東京パフォーマンスドール』(ソニー)、PSGの2009年作『DAVID』(ファイル)、SKY-HIの2012年作『FLOATIN' LAB』(BULL MOOSE)、G.RINAの2010年作『MASHED PIECES #2』(MELODY & RIDDIM)、南波志帆の2012年作『乙女失格。』(ポニーキャニオン)、DJ WILDPARTYのミックスCD『MOGRA MIX VOL.1 mixed by DJ WILDPARTY』(ユニバーサル)、電気グルーヴの91年作『UFO』(キューン)