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(第6回)異邦人

連載
BO NINGENの人生一度きり
公開
2013/07/31   13:00
更新
2013/07/31   13:00
テキスト
文/Yuki Tsujii(BO NINGEN)


ロンドン在住のバンド・BO NINGENが、現地の音楽やアートにまつわるあれこれを紹介する連載! 第6回は、ギターのYukiがロンドンで行われたイヴェントを紹介してくれます!



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皆様、いかがお過ごしですか。
これを書いている時分はまだロンドンにいて、記憶の限りにおいて8年ぶりほどの猛暑の真っ只中にいます。これ以上気温が上がったら、かのカミュ「異邦人」を破り捨ててやるとも思いましたが、日本に帰ったら何冊あっても足りないと思って止めにしました。

さて、今回は先月までのような怒濤かつ絢爛たるイヴェントもなく、われわれBO NINGENは目下スタジオにて新曲制作に励んでいるわけですが、偶然にも日本ではあまり聞き慣れない、特殊なイヴェントがあったので紹介したいと思います。その名も〈インディペンデント・レーベル・マーケット〉。ロンドンには数多くのインディー・レーベルが存在し、ひと口にインディーといっても、一人で経営する小さなレーベルから、ドミノや4AD、マタドールといった、ある界隈ではメジャー・インディーと呼ばれさえするような大きなものまでが、そのカテゴリーに入ります。そんな大小丸三角多種多様なレーベルがこの日一堂に会し、各々のブースで所属アーティストのレコードやグッズを販売するという趣旨のもので、普段はアンティークやヴィンテージの洋服、フードコートが立ち並ぶマーケットも、この日はレコードと真夏の日差しで溢れ返りました。ここ数年のヴァイナル(アナログ)・リヴァイヴァルもあり、老若男女がレコード・ハント、情報交換、ビールの痛飲に勤しむわけです。



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マーケット内部。蒸し風呂



BO NINGENの所属するストールン・レコーディングスのブースにて、われわれのマネージメントも兼ねているレイチェル。
この日はメンバー全員で顔を出したので、売り子もしました。
どんどん気温が上がっていきます。ビールの量も増えていきます。
お昼過ぎ頃から、足下がふわふわしてきた。



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こういったイヴェントでは、たくさんのミュージシャンの友人とばったり会います。
0ジェネシスという自主レーベルをファクトリー・フロアのニックと共に立ち上げた、説明不要なシャーラタンズのティム・バージェス。彼のソロ・アルバムもそこから出していました。
他にも、このレーベルからはサヴェージズのマネージャーであるクレアのバンド、スローイング・アップなどもリリース。



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元クローム・フーフ、先の0ジェネシスからもリリースしたブラッド・ミュージック、元ミソ・スープ……〈元〉が多い気もしますが、僕がギターを弾いている現Xaviersのシンセ・パーカッション担当のケンさん。と、われわれとレーベルメイトでもあるセラフィーナ・スティアのバンドにも参加し、プロデューサーでもありエンジニアでもあるキャプテンKことクリスチャン。



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さらにこの日は、マーケット終了後に友人がオーガナイズする〈イースト・エンド・ライヴ〉という都市型フェスティヴァル……をさらにミニマム化した、イースト・ロンドンのショーディッチというエリアにだけ絞ったイヴェントがあり、これまた友人である元スクリーミング・ティー・パーティのコウイチ君がソロで出演するというので、メンバーのコウヘイ君とそちらに移動。

その2件隣ではまた友人のライヴ、と思えば知った顔がぞろぞろ集まる……といったように、ロンドンではこのイーストという土地にバンド・ミュージック、特に若いバンドの活動が非常に集中します。日本、特に東京では高円寺や下北沢、また雑多な渋谷や新宿などに分散される傾向がありますが、ここロンドンではほぼイースト・ロンドンに偏る傾向が。そんなエリアのさまざまなヴェニュー(ライヴハウス)でライヴがあるということは、いまの若いバンドがみんな出演、あるいは遊びに来ているわけですね。はっきり言ってイギリスのそういった若いバンドの大体が全然好きじゃないので、そちらのシーンとは無縁になりますが、チャールズ・ヘイワードがこのイヴェントで演奏していたのは嬉しかったです。が、まんまと時間の都合がつかずに観逃してしまいました。最近会ってないので、久々に会いたかったなあ。
そうこうして路上で呑み歩いていると、トイのみんなにも久々に会いました。

ヴォーカルのトムと、なんでかココナッツ・ドリンクばっかり飲んでたギターのドム。



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われわれBO NINGENも数年前はこの界隈でひたすらライヴを重ねたものです。
思えば初めてイースト・ロンドンでパフォーマンスを行ったのは、ヴァイス・マガジンのパーティーでした。
サポート・アクトにキャンセルが出て、〈どう?〉というような流れだったと記憶しております。
このイヴェントに出演したことによって、最初の“Koroshitai Kimochi”という曲のMVを撮影してくれることになったマレック(インヴェイジョンというバンドでギターを担当していて、いっしょにツアーも回りました。さらに定期的にイヴェントを開催していて、そこに呼んでくれたりもした)やストールン・レコーディングスの面々をはじめ、さまざまなフィールドで活躍する人たちに観てもらうことになり、その後現在に続く縁を形成した、重要なライヴでありました。

日本への帰国前は、〈トラック・フェスティヴァル〉と〈ラティテュード・フェスティヴァル〉という2つのUKのフェスに出演。
前者はスピリチュアライズドやホラーズがヘッドラインを務め、比較的小規模で、農場のど真ん中に会場が設置されているようなフェスです。
われわれが演奏したステージも、向かいが牛小屋でした。中を覗くと、子牛が震えていたので、なんだか心配になった。
〈ラティテュード〉は大きな規模でしたが、〈グラストンベリー〉などUKの大型フェスと違って、会場内も清潔そのもの、お客さんもスタッフも非常にレイドバックしていて落ち着いた雰囲気でした。
ここでは向かう途中で渋滞に巻き込まれ、あわや出演がキャンセルになりそうな事態もありましたがなんとか間に合い、ビールを流し込んでさっそくライヴ。
BBC RADIO 1のDJでもあるヒュー・スティーヴンスがキュレーションしたステージで、おかげさまで大盛況にて幕。
ラストの曲“Daikaisei”の途中で、それまで曇天極まりなかった天候が、刹那、雲が晴れて太陽が燦々と輝き出した瞬間、まさに大快晴そのものの劇的な太陽のコラールに、演奏していて恍惚となりました。

演奏後は暫し歓談飲酒仮眠と恒例の流れ、友人であるジェイムズ率いるヴェロニカ・フォールズのライヴをさらっと観た後、トリのクラフトワークを観にみんなでメイン・ステージへ。

オリジナル・メンバーは一人とのことですが、無論、他の3人も重厚な風格を備えた初老のミュージシャンで、そんな4人が、新旧織り交ぜたメドレーのような形式でステージを作っていく姿は、やっぱり観応えありましたね。
ハーシュな質感ではなくて、当時のジャーマン音楽もそうでしたが、デジタル処理された音楽でもあくまで〈温かい〉。
大きなスピーカーで聴いても、非常に音/耳を第一に考えたセットでした。
彼らは等しく老けていくけど、彼らの音楽は歳を取らない。



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例の牛小屋。ものすごく怯えてた



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おひるね



さて、〈インディー・レーベル・マーケット〉の話から最近の出来事を、大雑把ですが書いてきました。
そんなことをしたり見たり考えたりしていると、これを書きはじめたのはロンドンなのに、いつの間にか日本へ帰国していて、いまこの瞬間に至るわけですが、ふと思ったことがあります。
今回の来日ライヴやフェス出演、そのすべてがひとつであり、また重要であることに変わりはないのですが、来る8月13日には代官山UNITにて、われわれにとって初めてのワンマン公演があります。
いままで観たことも観られたことも、聴かれたことも、われわれも聴いたことのない稀有な音体験になるはずです。
そして今年はこれっきりの特別公演。
われわれBO NINGENがどうかは別として、音楽は不死なるものです。
神聖なるものも、恐るべきものも、不可解なるものも、それはみずから不死であることを知るものであり、それは滅んでゆくもの、死を蔑ろにしていないもの。
くだらない音楽も至上の音楽も、等しく続いていく点で、それは人間と違って永遠なのかもしれません。
永遠であること、それは過去や未来を汚すものだとしても、時間と連続のなかに生きながら、瞬間の永遠性に生きていたいという矛盾した欲求を、僕らの愛した(愛する)音楽は満たしてくれるような魔性の魅力を持っています。
それは、途方もないムジカの力を(そしてその悲劇性をも)端的に示すオルフェウス的な魅力でありますが、そこにはわれわれ自身の音楽が介在するということ、この2013年にBO NINGENがかの地でワンマンを演るということ。
眼ん玉を開いたっていいし、閉じたままだっていい。
真夏の夜に、ありありとした湿気と乾いた現在、忘れられた曲、懐かしい曲、誰も知らない曲、われわれ自身も知り得ぬ音像。
きっと、記憶にも、言葉にも残らない何かを皆様に、音楽に、捧げることのできる夜になるのではないかなと思います。
タノシミや!

それでは
にほんの夏は暑い!
身体にはご自愛ください。
あと、よく飲んで、よく食べましょう。
会えるのを、楽しみにしています。



PROFILE/BO NINGEN



Taigen Kawabe(ヴォーカル/ベース)、Kohhei Matsuda(ギター)、Yuki Tsujii(ギター)、Akihide Monna(ドラムス)から成る4人組。2006年、ロンドンのアートスクールに通っていたメンバーによって結成。2009年にアナログ/配信で発表した『Koroshitai Kimochi EP』が現地で話題となり、〈Offset Festival〉をはじめとした地元メディアからも注目を集め、UKツアーのみならず、日本盤の発表後は日本でのツアーも成功させる。2011年にミニ・アルバム『Henkan EP』をリリース。最新作となるセカンド・アルバム『Line The Wall』(Stolen/ソニー)の日本盤も大好評。そして現在絶賛来日中のメンバーは先日初の〈フジロック〉出演を果たし、間もなくツアーがスタートします!

「BO NINGEN HEADLINE LIVES 2013」
8月1日(木)名古屋 APOLLO THEATER ゲスト:N'夙川BOYS
8月3日(土)大阪 SHANGRI-LA ゲスト:N'夙川BOYS
8月13日(火)東京 代官山UNIT *単独公演
そして
8月16日(金) RISING SUN ROCK FESTIVAL 2013 in EZO

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