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THA BLUE HERB

連載
NEW OPUSコラム
公開
2013/08/29   19:00
更新
2013/08/29   19:00
ソース
bounce 358号(2013年8月25日発行)
テキスト
文/一ノ木裕之


東北を巡り、いまを生きる人々に語りかけ、未来を託したツアーの記録



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東日本大震災以降の状況に触発されたポジティヴな鼓舞の意識を、昨年の4枚目のアルバム『TOTAL』で形にしたTHA BLUE HERB。そのアルバムを作らしめた発端の一つともなる被災地でのツアーは、彼らにとって通らねばならぬ道だったはず。そして、それが去る3月、宮古から大船渡、石巻を回る〈CAN'T STOP TALKING TOUR〉なる東北ツアーとして実現し、そのドキュメンタリーが映像作品『PRAYERS』として届けられた。本作は2枚のDVD+CDの3枚組。BOREDOMSやbloodthirsty butchersらとの仕事で知られる川口潤が「PHASE 3.9」に続いて監督を務め、Disc-1は移動中の様子やインタヴューなどに加えて初日と2日目のライヴ映像が盛り込まれ、Disc-2にはツアー最終日のショウが収められている。

東北の東側、国道45号線をライトバンで南下するツアーの道すがらに見る、大災害にさらわれた街々。とりわけ印象的なのは、ツアー2日目の会場であった大船渡のライヴハウスの建物に残る生々しい爪跡だ。移動車を降りた先々で線香を上げ、祈りを捧げるメンバーの姿、さらにはいつも以上に言葉を尽くしてオーディエンスへ語りかけ、ステージを降りてその輪に入っていくILL-BOSSTINO——目の前の惨状にいまだ言葉もないこの地で音楽を鳴らすこと、音楽を〈やらせてもらう〉ことの意味を噛み締めるようなパフォーマンスは、グループがようやくこの地へ降り立つまでに要した2年分のエネルギーを凝縮するものともなった。そして彼らの祈りは言うまでもなく、死んでいった人々以上に、いまを生きる人々、残された人々のいまへと向かう。観客とハイタッチしながら“未来は俺等の手の中”を叫んだ後、曲を離れて長々と語りかける石巻のステージのクライマックスは、この日最高の瞬間ともなった。

さらに、CDに収められた新曲“PRAYERS”は、いわばDVDのアウトロ。冷めやらぬツアーの記憶を地続きに、いまへの祈りを重ねている。



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