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(第243回)ヴェルヴェッツはなぜあんな音になったのか?

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2014/01/10   17:30
更新
2014/01/10   17:30
テキスト
文/久保憲司


ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返るコラム。今回は、昨秋の逝去の報に世界中から哀悼の声が上がったルー・リード率いるヴェルヴェット・アンダーグラウンドの68年作『White Light/White Heat』の45周年記念デラックス・エディションについて。そこでは、なぜ彼らが独自な音を獲得するに至ったかの理由が語られていて――。



昔、スロッピング・グリッスル、サイキックTVのジェネシス・P・オリッジの家に遊びに行ったら、白いクリスマス・ツリーが飾られた、とってもおしゃれな家だった。あの有名な白いヘビはいましたけど。

レコードは大量にコレクションされているわけではなく、一般家庭でもありそうな程度の数が奇麗に置かれていた。

でも、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのレコードは全部揃っていて、〈ジェネシス、やっぱわかってるわ〉と思った。

もし孤島に行くとしたら、ローリング・ストーンズやビートルズのCDを全部持って行くという人は多いかもしれないが、ぼくはヴェルヴェッツのCDだけを持っていく。

ヴェルヴェッツのCDは、何回聴いても楽しい。でも、そこにはジェイムス・ジョイスの「ユリシーズ」やT.S.エリオットの「荒地」のようにいろんな謎があるような気がする。

特に、この『White Light/White Heat』はなんでこんなに音が割れているのかと思う。

初めてこのアルバムを買った時、僕は不良品だと思って、レコード屋さんに変えてもらいに行った。一週間後、届いたレコードは返品したレコードとまったく同じ音だった。レコード屋のお兄さんと二人で〈これはこういう音のレコードなんだ〉と気付いて二人で〈は~〉とため息をついた。

それから30年近く経ったが、彼らのこの音は標準になったと言っていい。マイ・ブラッディ・ヴァレンタインのあの音の原点はここから始まったと言っていいだろう。ストゥージズ、デヴィッド・ボウイを通過してパンクが生まれたが、その音の原点がこれなのだ。

このアルバムには当時の都市にまぎれていたさまざまな音が含まれていると言えるだろうけど、ぼくにとってはパンクの原点の音。聴いていると、いまも心を燃やしてくれる。

今回の45周年記念スーパー・デラックス・エディションでは、なぜ彼らがこういう音になったのか、メンバーの証言でちゃんと説明されている。彼らは当時の自分たちのライヴの音をレコードに残したかったということらしい。

“Sister Ray”がなぜ17分もあるかといえば、それは彼らの音楽のルーツがドローン・ミュージックだったからだとメンバーが証言している。

ドローン・ミュージックは廃れたが、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの音楽は残った(いま、またドローン・ミュージックが流行っているけれど)。そんなドローン・ミュージックのミニマルさに、アフリカン・ドラムが好きだったモーリン・タッカーが入ることによって、ヴェルヴェッツの音は完成されたということだ。

ドイツでも、このヴェルヴェッツと同じような融合をしたカンが同時期に出てきたのはとっても興味深い。そして、これらの〈特殊と言われた音楽〉が、いまの音楽にも大きな影響を与えているというのは、もっとも興味深いことだ。

45周年記念スーパー・デラックス・エディションは高いけど、このアルバムの謎を語っている解説はぜひ読んでもらいたい。また、この芸術作品をジェイムズ・ジョイスの初版本を飾るように飾ってほしい。

いま、僕はそうしている。高かったなと思いながらも、なんか大事な宝物を飾っているようで嬉しい。