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第14回 ─ Juana Molina来日ライヴ@渋谷CLUB QUATTRO 2003年8月4日(月)

連載
ライヴ&イベントレポ 
公開
2003/08/07   17:00
更新
2006/01/19   18:37
テキスト
文/原田★星

近年音楽界で話題となっている<アルゼンチン音響派>。その界隈では歌姫の異名をとり、加速度的に人気を上げているフアナ・モリーナの、2度目の来日公演が行われた。多くの日本人アーティストから支持され、CDの売り上げの3分の2は日本(!)といわれている彼女のライヴを見てきました。


EGO-WRAPPIN'の中納良恵(キーボード&ヴォーカル)、LITTLE CREATURESの青柳拓次(ベース、ギター、ボーカル)、acoustic dub messengersの菅原雄太(ドラムス)、そして数多くの客演で知られる高田漣(スティール・ギター)という豪華メンバーによるユニットの演奏で当日のステージは幕を開けた。あらゆる国のトラディショナルな要素を織り交ぜたようなバックの演奏と、中納良恵の抑えめのボーカルが絶妙にマッチした内容に、会場全体がしっとりと和みムードに。メンバーのうち2人は前日フジロックでしきりに観客を沸かせていたのだが(中納がEGO-WRAPPIN'、高田漣がハシケンのサポートで出演)、ここでの打って変わって落ち着いた演奏は、フジロック後このライヴに直行した筆者には沁みるものがあった。中盤に紹介された〈アイ・コンタクツ〉という、なんだか冗談のようなユニット名も、彼らの持っていたほのぼの感が表れているように思う。


そして、フアナ・モリーナの登場。まず、演奏を見る前に驚いたのがあまりにも簡素なセッティングだったこと。ギター2本に、ベース、シンセ2台、それに2種類のパーカッション。バンドは、フアナと2人の男性の3人だけだ。ラップ・トップ・コンピュータも、それを操るマニピュレーターもいない。「このセットで、あの音をどうやって再現するんだろう?」という疑問を抱きつつステージをまじまじと見つめていたのだが、その疑問は一曲目で即座に解消された。アコースティック・ギターを奏でながらフアナが歌い、そこに2人の男性が彩りを添えるように他の楽器を重ねていく。つまり、はなっからCDの再現をするつもりはない。あくまでもフアナの歌とギター、つまりシンガー・ソング・ライター的な彼女の側面を押し出したライヴだったのだ。楽曲によっては打ち込みが導入された曲もあったが、ほとんどがドラムレス。それにより、曲の〈間〉が生かされ、ボーカルのきめ細かさが際立つ。ぼんやり聴いていると、ホントに寝てしまいそうな夢心地の時間を味わうことができた。途中シンセの音が出なくなるハプニングがあった時などは、即興で“イパネマの娘”を披露する、なんて場面もあり、元コメディエンヌという彼女のアドリブの強さとユーモアが垣間見れた。

 おそらくフアナは、突然変異的に生まれた天才肌の気鋭アーティストというよりは、たとえば若い頃からギターに親しみ、鼻歌の延長で作曲をしてしまうような自然体の人なのだろう。アルゼンチンという普段あまりなじみのない土地のおかげか、どうにもアーティストの顔が見えてこない印象を抱いていた筆者にとって、その素顔に少しでも近付けた今回のライヴは収穫だった。〈アルゼンチン音響派〉というキャッチーなコピーは一過性のムーブメントとして消費されてしまうのかもしれない。が、この日のライヴを見た限りでは、彼女はそのムーブメントが過ぎ去った後もきっと飄々とした顔でこれまでに劣らない、美しくもストレンジな音楽を聴かせてくれるのではないだろうか。

▼フアナ・モリーナの過去作を紹介