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第22回 ─ UA@日比谷野外音楽堂 9月7日(日)

連載
ライヴ&イベントレポ 
公開
2003/09/18   13:00
更新
2006/01/19   18:37
テキスト
文/押部啓子

赤みがかった空、絶え間ない虫の音、そして不思議な至福感──UAが9月7日の野音に呼び込んだものは、いつまでも消えない特別な感覚を残した。さぁ、もう一度あのとき、あの場所の素晴らしい空間を振り返ろう!

 
  湿気を含んだ少し重そうな空。〈水の女〉UAは初の野音ワンマンに雨を呼び込んでしまうのか?……という予感は結局、外れた。日暮れ時。雨が降るかわりに、空がほんのりかすかに赤みがかって見えてくる。

「火星のせいかな……」。

 UAがステージでつぶやいた。赤い星が21世紀で最も地球に近づいた03年の夏の終わり。9月7日の野音は心地よく響く耳鳴りみたいな、絶え間ない虫の音に包まれていた。

  95年にシングル“HORIZON”でデビュー。9月17日に初めてのベスト盤『Illuminate~the very best songs』を出した。そんな時期だから単にシングル集的な構成で見せる手もある。ただ、UAはそんな要素も絡めつつ、基本的に〈この日、この空間で、今の自分が唄うのに最も適した曲〉を素直に選んだようだ。1曲目“情熱”の、ファンが一瞬戸惑うほどの斬新なリ・アレンジも、そういった意味での必然性というか〈今の気分に対するフィット感〉を考慮してのことではないかと思う。

「夕立ちの音に聞こえた(笑)」。

  楽屋で、アンコールの拍手の音が雨音に聞こえて一瞬、焦ったらしい。虫の音が効果音みたいにハマった“水色”の、心を浄化するような素朴な唄。この選曲なら入るかも、と期待した“スカートの砂”もここで演った。風がその柔らかなテクスチャーを確かめるように、ふわりとUAのスカートを撫でていく。最後に「大切な唄」という前置きで始まったのは“太陽ぬ落でぃまぐれ節”。これは雑誌の企画で青柳拓次とコラボした曲(CDが付録でついた)で、本人は〈悲しい響きのものが多い奄美の島唄の中で大陸的な楽観性を持った曲〉という説明をしている。大らかだが何かしら迫り来るような、特徴的な抑揚を持つこの唄が、遮るもののない空間に向けて放たれ、聴き手の胸に降り注ぐ。感動や盛り上がりといった次元を超えた特別な感覚。ふと“スカートの砂”の発表当時UAが言った「〈スカートについた砂さえ地球の欠片や〉みたいな気分だった(笑)」という言葉を思い出し、野音が大自然の中の都会という砂漠に在る、小さなオアシスのように感じられた。

「愉しかったぁ~」。

 ひじょうに意味深く大きなステージを見せるアーティストになったなぁ。そんな感慨をよそに心底愉しげに、軽やかな足取りでソデにハケたUA。彼女が去った後の場内には何とも言えぬ、不思議な至福感が漂っていた。