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第24回 ─ CALM featuring MOONAGE ELECTRIC BIG BAND@恵比寿ガーデンホール 9月22日(月)

連載
ライヴ&イベントレポ 
公開
2003/10/02   16:00
更新
2006/01/19   18:37
テキスト
文/ヤング係長

MOONAGE ELECTRIC BIG BANDという名の、20名近くのビッグバンドを率いて行われたCALMのツアー“ANCIENT FUTURE”最終公演。この、とんでもなく豪華なステージの模様をbounce.com編集部がレポート!


総勢20名近くの生バンドがステージに上がる壮大なステージをCALMが行う、という話を聞いた時には、正直言って「普段はラップトップで音楽を作っているアーティストがなんで?」という疑問が頭に浮かんだ。もちろん、彼がOrgan Language名義でリリースした作品や、DJとしての活動でフロアを沸かせているのを知っていたが、やはりその疑問は実際に会場に足を運ぶまでは頭から離れなかった。そんな思いを抱きながら会場である恵比寿ガーデンホールに足を運んだ。

会場には、アルバム『ANCIENT FUTURE』で使用されたアートワークが各所に並び、入り口からも今回のライヴがスペシャルなものであることを印象付けている。フロアでは、パトリック・フォージがまったり目のDJで観客をじんわりと盛り上げたあとは、ゲストライヴとしてEGO-WRAPPIN'の中納良恵によるバンド、Ju Ju KNEIPP(ジュ・ジュ・クナイプ)が登場。acoustic dub messengersの菅沼雄太と吉田浩太郎、Tsuki No Waの伊藤拓之ら、卓越した手腕のメンバーに囲まれた中納は、エゴのライヴのようにフロントで観客を煽りたてるわけではなく、ピアノに向かい落ち着いた雰囲気でしっとりと歌う姿が印象的だった。トラディショナルな要素を多分に含みつつもそれらを咀嚼した、非常に現代的な音楽を奏でていた彼女たち。不定期活動ユニットにするのはもったいないのではないだろうか。


そして、30分ほどのインターバルをおき、メインアクト、CALM featuring MOONAGE ELECTRIC BIG BANDの出番となった。ラップトップをフロントに置き、ストリングス隊、パーカッション隊、ホーン隊、ギター、ベース、鍵盤、コーラスがずらりとステージ上に揃った姿は壮観の一言。コンダクター的な役割をCALMが勤め、それぞれがCALMの動きに合わせて自身のパートを奏でていく。演奏されているのはCALMの楽曲には間違いないのだが、そこに漂う肉体感というか、迫ってくる力が全然違っていた。初めこそそれぞれのメンバー間に漂う緊張がこちらにも伝わってきたものの、数曲が終わった頃には一体化したバンドの迫力ある音の前に無条件に体が反応してしまう。1曲の中であらゆる音が重なりあって混ざっていく。しかし、人数が多いからと言って、やたらに音を足していくわけでもなく、詰め込み過ぎない程度に音を抜いていく。そのバランス感覚の良さに気付いてハッとさせられたのは、筆者だけじゃないだろう。そういった見どころは、数え上げるとキリがないほどあったこのライヴだが、特に興奮させられたのがパーカッション隊だ。バックでリズムに徹することもあれば、場のメインにもなるほどの華があるアグレッシブなプレイを見せてくれる。生で演奏することの大きな意味として、その<場>が持つ偶然性というものがあると思うのだが、彼らはきっちりその意味を理解し、バンドの中で大きな役割を果していた。

このスペシャルなライヴは、CALMが普段作っている楽曲制作とまったく逆の位置にあるというわけではない。むしろ視線は同一で、その構成要素をデータから生演奏へと変化させたものなのだろう。冒頭で触れた、筆者の持っていた疑問はステージを見るとすっかり解消していた。ラップトップ上の音をバンド演奏に移行させてパフォーマンスを行う、というアイディア自体はシンプルだ。が、それを実際に行うのはかなりのリスクと障害が伴うものだったのだろう。ステージ終了後の彼の、満足げな笑顔の中に見せた安堵の表情からも、そのハードルが高かったことが伺えた。今回のステージは、リスナーはもちろん、彼と近い活動をしているアーティストたちにも大きな刺激となったはずだ。

このライヴの模様を収録したDVDとライヴアルバムが発売されることが決まっているとのこと。当日見ることが出来なかった人はそちらをぜひ。

▼出演アーティストの作品を紹介