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第29回 ─ 岡村靖幸 FRESH BOY TOUR@ZEPP TOKYO 2003年10月14日(火)

連載
ライヴ&イベントレポ 
公開
2003/10/28   12:00
更新
2006/01/19   18:37
テキスト
文/内田 暁男

恋するシンガーソングライターダンサーが7年ぶりに帰ってくる! そう思うといてもたってもいられなかった。今年8月の〈ROCK IN JAPAN FES〉での鮮やかな復活を目に焼きつけてからずっとそう。そしてこの日──猛烈にピュアな愛情で作り出される日本でいちばんファンキーなダンス・ミュージックが会場を揺らしたとき、そんな僕たちのじらされた思いは沸点に達した。目の前で汗まみれのスターがこう歌う。〈青春しなくちゃまずいだろう!!〉。


 登場までの胸の高鳴りに反して、ほとんどメロディーを歌わずにがなっているように見えた最初の数曲(“いじわる”“聖書”“生徒会長”)はもうヒヤヒヤして正直ライヴにのめりこめなかった。明らかに声が出ていない……。しかし4曲目の“あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう”のAメロを艶かしく歌いはじめたあたりから声の柔らかさが徐々に回復。その後も高音部の辛さは相変わらずだったが、そんなことはどうでもいいとばかりに岡村ちゃんに釘付けだった。岡村ちゃんは必死に歌って必死にダンスしていた。それだけでいいんだよ。

 ギター、ベース、キーボード、ドラム、ホーン、ターンテーブル(なんとajapai)の編成で繰り出される怒濤の濃密ファンク・メドレーが2時間30分。当日の模様を一言で言うならばそんな印象のライヴだった。2003年仕様に低音を強調したグルーヴは賛否両論分かれるところだろうが、凄まじいリハを経たであろうそのアンサンブルは彼らの確かな力量と誠実さを物語る。 “DOG DAYS”や“out of blue”などの初期楽曲がしっかりとアップデートされていたのは確かだろう。そしてなにより一瞬の気も抜くことなく、エンターテイナーに徹していた岡村ちゃんのパフォーマンスが感動的にカッコよかった(それを盛りたてようとするオーディエンスの合唱は輪をかけて感動的だった)。

  “家庭教師”の中盤でのエロ一人芝居は当時に比べればごく簡素なものだったが、パントマイムで女体を形作り、卑猥な手つきと目線がエスカレートしていくさまは当時と同質の病んだ変態性があった(ライヴDVD『LIVE家庭教師 '91』でもっとスゴイの見れます)。曲間のアドリブでリアルな心情を挟み込む手法も岡村ちゃんワールド全開。“カルアミルク”の後半では去っていった彼女に向かって〈なんであんな奴のほうがいいんだよ。おまえがそう出るんだったら、俺はLPじゃんじゃん出してライヴじゃんじゃんやるぜ〉といったり(註:すいません以下すべてうろ覚えです)、アンコールの弾き語りでは〈きみのパンツを見るために生まれてきた靖幸ちゃんだぜ。きみがパンツ見せてくれたら年にLP4枚出すぜ〉といったり、ラスト前のスペシャル・フリー・セッションでは少女をさらう事件を起こした男に向けて〈ひとりきりで牛丼屋に行って寂しい思いをしても、だからって少女をさらおうなんて思わないぜ〉といったりいちいち熱くて気がきいてて最高。またこのツアーのために岡村ちゃんが書いた詩をキーボードの女性が朗読するというコーナーにて、赤坂見附の売春婦がネッカチーフをたたんでいる風景を見て〈きっと中学生のときもおなじようにネッカチーフをたたんでいたんだろう? 〉と想像する彼のどうしようもないピュアネスには胸を打たれずにはいられなかった。

 完全B仕様の♂ダンサー二人を従えた岡村ちゃんのダンスは往年のキレはなかったけど、そんなことよりちょっとヤバイ目つきと人を魅きつけずにはいられないオーラが全く衰えていないことのスゴさをもっと認識すべきだ。名ロッカ・バラード“イケナイコトカイ”でいまもってオーディエンスを本気で泣かせてしまうスゴさをもっと認識すべきだ。〈ファンキー〉であることの意味を身をもって日本中の誰よりも体現しながら、2003年の10月、岡村ちゃんは必死に歌い踊っていた。それだけでいいんだよ。

岡村ちゃんも出演した今年8月のROCK IN JAPANレポの模様はこちらから!

▼岡村靖幸のオリジナル・アルバムをいまこそウェイバック!!