こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

NEWS & COLUMN ニュース/記事

第40回 ─ Cymbals Live “encore”@渋谷O-East 2004年1月20日

連載
ライヴ&イベントレポ 
公開
2004/02/05   17:00
更新
2006/01/19   18:37
テキスト
文/内田 暁男

Cymbalsの最後のベスト・アルバムのタイトルは『Anthology』。アンソロジー。辞書によればそれは、〈一定の主題・形式などによる、文学作品の選集。また、抜粋集。佳句集。詞華集〉。そう、Cymbalsの〈一定の主題〉とは……解散。〈encore〉と題されたCymbalsのラスト・ライヴは渋谷O-Eastで1月20日に開かれた。

 
 ラスト・オリジナル・アルバムのタイトル『Love You』がビーチ・ボーイズのアルバム・タイトルと同じであるっていう例を持ち出すまでもなく、モンキーズ、キンクス、フー、プライマル・スクリームなど、曲名やサウンド・アレンジに引用されてきたそんな先人たちの意匠は彼らの音楽をさらに楽しく意味深いものにしてきた。そしてラスト・ライヴのタイトルを〈encore〉と掲げ、この日のオリジナルTシャツの胸に〈THAT'S ENOUGH! I DON'T NEED CYMBALS, ANYMORE〉(=もうたくさんだ! Cymbalsはもういらない)と書き、CymbalsはいよいよCymbalsそのものを戯画化したところでその活動の幕を閉じる。彼らの美意識は徹底されている。それはリーダーの沖井礼二が溺愛するフーのように。しかしそれは同時に渋谷系といわれたムーヴメントの本格的な終焉を意味するのか? てかもうとっくに終わってるか。そんなことを考えていたら……。

 大音量で鳴り出すジャムのデビュー曲“In The City”をSEにCymbalsは最後の姿を現した。登場からはやくもハイ・テンションな沖井礼二の姿がこの日のライヴを暗示している。つまり東京の街でジャムのように最高に粋なパンク・バンドとして存在すること。その答えのひとつがCymbalsでありこの日のライヴであった。


土岐麻子

ギターにNONA REEVESの奥田健介やパーカッション、キーボードなどを加えた7人編成が“Situation Vacant”を奏でてから、もう怒濤のブリティッシュ・ビート・ポップが感傷のスキを与えることなく走り出す。それは熱くてスタイリッシュで……僕はすぐさまコレクターズを思い出したりしたけど、ヴォーカリスト土岐麻子のキュートでクールな佇まいは、この日のライヴそのものが〈アンコール〉であるという皮肉を思い返させる。いつだって楽しさと残酷さは背中合わせってこと。全アルバムのなかから、キラー・チューンを網羅したようなセット・リスト(下記参照)は、その〈アンコール〉感の意識的な演出であるが、この日の素晴らしいオーディエンスは最後の夢を力いっぱい楽しもうとしていただけだ(“Do You Believe In Magic?”の盛り上がりっぷり!)。「これで本当に最後の曲です」と言って演奏された、インディーズ時代のナンバー“I'm a Believer”は虹のようなコーラスを従えてアッという間に過ぎていった。本当にあっけなかったけど、Cymbalsは最後までモッドでありつづけることを選んだ。それは最高にカッコイイことだと思う。

 最後に追記。Cymbalsは沖井礼二、土岐麻子、矢野博康の3人組バンドだが、3人という枠組みに捕らわれることなく、クリエイティヴを構成するメンバーそれぞれの集合体がCymbalsであるという思想を持っていた。常に流動的な活動体=〈バンド〉の既成概念を越えた緩やかな共同体を形成したい、という意味において彼らはピチカート・ファイブやサニーデイ・サービス後期と同じ思想を共有しており、『LOVE ALBUM』というサニーデイのラスト・オリジナル・アルバム・タイトルがCymbalsのそれと符号するのも別に不思議ではない。そしてそんな緩やかな共同体の時代が終わり、個人の闘いがこれから始まる。それはなにかこれからの時代を象徴しているなと思うのは僕だけだろうか?

・Cymbals “encore”
1. Situation Vacant
2. Stupid Girl
3. Higher than the Sun
4. Show Business
5. RALLY
6. アメリカの女王
7. My Patrick
8. Love Thing
9. Air Guitar
10. Highway Star, Speed Star
11. Do You Believe In Magic?
12. My Brave Face
13. Wingspan
14. 怒れる小さな茶色い犬
15. I'm a Believer