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第51回 ─ SATURN @ Osaka DOME-SKY HALL 2004年5月15日(土)

連載
ライヴ&イベントレポ 
公開
2004/05/27   02:00
更新
2006/01/19   18:37
テキスト
文/吉本 秀純

V∞REDOMS、石野卓球、THA BLUE HERB、BUFFALO DAUGHTER……、日本が世界に誇るトップ・クラスのアーティスト達が一堂に会したなんでもありのオールナイト・パーティー〈SATURN〉。大阪の夜を熱狂の渦に落とし込んだ当日の模様を最速レポート!

 大阪ドームを土星の輪のように取り巻くチューブ状の空間=スカイホールで行われた“SATURN”は、2重の意味で最高峰のオールナイト・イベントだった。まずは出演者。会場の両端に設けられたDJフロアとライブ・ステージに登場した面々は、いずれもロック、テクノ、ハウス、トランス、ヒップホップ、ダブなど、各ジャンルの真打ちと呼べる音を発信し続けるツワモノばかり。夜7時から朝6時まで、どちらのフロアに行っても日本最高峰のダンス・ミュージックが鳴り響き、両端に強烈な磁場を持ったU字型の磁石のように、集まった音楽ジャンキーたちを右へ左へと引きつけた。そして、もうひとつはロケーション。地上9階まで長いエスカレーターを乗り継ぎ、架空のスペース・コロニーに辿り着いたかのような軽い興奮……。普段は地下で鳴り響くサウンドを中空に解き放った点でも、SATURNはその音たちに特別なエフェクトを加えていたように思えた。


サイケアウツG photo:バンリ(以下同)

  まず、オープニングからただならぬビートの嵐でスカイホールを異空間に仕立て上げたのは、地元の関西勢。ドラムンベース界期待の新生=DJ拓栄 feat. MC CARDZに続いてターンテーブルとラップトップの2人で登場したサイケアウツGは、BPM&ラウドさ倍増のビートを怒濤のごとく繰り出し〈ブレイク・コアがなんぼのもんやねん?〉と言わんばかりの強烈な音塊を叩きつけた。同時にDJフロアには、クラナカa.k.a.1945が登場。スモーキーなダブなどから終盤は高速ドラムンベースへと一気に加速し、次のDJ KRUSHに場を譲った。


Boom Boom Satellites

  ライブ・ステージにはBoom Boom Satellitesが登場し、以前よりもさらにロック・エナジー全開のステージで黒山のオーディエンスを揺らし続ける中、KRUSHは彼ならではのストイックなブレイクビーツでフロアを支配。そのクールネスに呼応するかのように、ライブ・ステージにはこだま和文が現れ、ダビーなバック・トラックを受けてトランペットを吹き鳴らす。KRUSHから移動してきたことが影響してか、思わずマイルス・デイビスの幻影がよぎった。その一方で、Boom Boomが生み出したアッパーなノリは、アジア人初のDMC世界チャンピオンでもあるDJ KENTAROの方へ。この日は4つ打ちセットに挑むということで注目を集めたが、随所に超絶スクラッチなどの大技を盛り込みつつ、ジュニア・シニアやラテンっぽいトラックがちりばめられたサービス満点なプレイは、ジャンルレスに観衆を引き込むアゲアゲ状態へ。VJの宇川直宏も、大技を繰り出す彼の手許をモニターで映し出しながら“ホワッツ・マイケル”などの大ネタ映像を差し込み、前半のピーク・タイムを演出していった。

  そして日付けが変わり始めた頃、ライブ・ステージには電球を両手に持ったEYEが登場。暗闇の中でその2つの電球を振りかざし始めると、スター・ウォーズのライト・セーバーのような電子音ノイズが場内に轟き、EYEのアクションも次第に激しさを増す。やがて、そのEYEの鮮烈なパフォーマンスに合わせて3台のドラムがリズムを刻み始め、オーディエンスの歓声の高まりを見計らって怒濤のブレイクビーツの嵐へと突入! EYEによるシャウトやサン・ラーばりのシンセサイザーに合わせて、ユニゾンになったりフリー寸前のポリリズムを叩き出したりと、自由自在にフォーメーションを変えながら無尽蔵のグルーヴを生み出していった。

  そんなV∞REDOMSが人力で土星への到達(?!)を試みていた頃、DJフロアには石野卓球が登場し、大バコのノリを熟知した世界標準のテクノ・プレイで大観衆を完全にコントロールしていた。最新作『TITLE #1~3』と同様に、ジャーマン・ニューウェイヴ~ミニマル~デトロイトなどを包括した多彩な選曲を披露。VJの宇川も選曲の多彩さに応え、日の丸弁当のアップ(!)やトラックとシンクロして踊り出す金髪巨乳女性のストリップ映像などを駆使して、マッドな異才ぶりをいかんなく発揮する。さらに、終盤にはなんとビースティー・ボーイズ“Fight For Your Right”のテクノ・カバーまで飛び出す始末。その後を受けた西のミニマル番長=田中フミヤは、男気あふれる選曲でさらなるディープ・ゾーンへと誘っていった。


石野卓球


AlayaVijana

  ここで再びライブ・ステージに戻ると、Buffalo Daughterが最新作『Pshychic』からのナンバーを奏で始め、ひとりクラフトワーク状態な大野由美子のシンセとシュガー吉永のシャープなギターを中心に、クールかつキュートなアンサンブルを展開。ラストに披露された長尺の“LI303VE”では、それまで抑制していたテンションを一気に表面化させ、ドライブ感溢れるトランシーなグルーヴで圧倒した。そして、イベントもいよいよ佳境を迎えた午前3時台、DJフロアにはムードマンが登場し、VJ宇川が繰り出すマニエリスティックな映像とともに、シンセのトーンが美しい楽曲を次々とプレイして幻想的な音空間を構築していった。それに対してライブ・ステージには、北からの刺客=THA BLUE HERBが登場。KRUSHやクラナカといった盟友の名も挙げながら、曲間でもフリースタイルで言葉を連射し続けたイル・ボスティーノは、普段はラップなど一切聴かないようなテクノ・ヘッズたちをも不思議な引力で引きつけているように感じられた。そして、トリを務めるAlayaVijanaが登場した朝の5時には、ホールの小窓からうっすらと青い光が覗くように……。シタールとタブラを中心とした、インド音楽というよりもテリー・ライリーなどを思わせるミニマルなアンサンブルは、ジャンルレスな“SATURN”の締めにふさわしく、多面的な響きをもって最後まで残ったオーディエンスを魅了してくれた。

▼出演アーティストの作品を紹介