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第18回 ─ 楽器の魅力が最大限まで引き出されたジェフ・ベック&ヤン・ハマーのライヴ盤

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2004/11/18   16:00
テキスト
文/久保 憲司

『NME』『MELODY MARKER』『Rockin' on』『CROSSBEAT』など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る週間日記コラム。今週は、76年に行われたジェフ・ベック&ヤン・ハマーの壮絶ライヴ盤について!

2004年11月12日(金)JEFF BECK『Jeff Beck With The Jan Hammer Group Live』

  先週はPファンクのことについて書かせてもらいましたが、今日はジェフ・ベック『Jeff Beck With The Jan Hammer Group Live』。Pファンクのバニー・ウォーレルが弾くミニ・ムーグを聴いていて、「もっとミニ・ムーグが聴きたい」と思い。『Jeff Beck With The Jan Hammer Group Live』のヤン・ハマーだと思いました。シンセサイザーが出はじめの頃は、「どんな音でも作れる」と言われていましたが、もちろんそんなことはなくシンセはシンセの音しか出せなかった。それでシンセは結局すぐに飽きられたと思うのですが、そんな時代から忘れ去られようとしていた楽器の特徴を最大限まで引き出し、ミニ・ムーグという一つの楽器に完成させたのが、Pファンクのバニー・ウオーレルやこのヤン・ハマーなんじゃないでしょうか。ぼくなどはひれ伏してしまいます。こんな音があったのか、と衝撃を受けっぱなしです。ピッチ・コントローラーを駆使したスライド・ギターというかフルートというか、もう凄まじいキーボード・プレイ。当時はまさにシンセサイザーでしか出来なかった。そしてミニ・ムーグの倍音のきれいなこと。

 たぶんヤン・ハマーはエレクトリック・ギターに時代を取られたのが嫌だったのではないでしょうか。「俺ももっとステージで目立ちたい」と。そして、それをきちんと実行したのがえらい。この後キーボーディストは「もっともっと目立ちたいんだ!」、とばかりにキーボード担いでステージ前まで来るようになるのですが、それはどうでしょう。ぼくはヤン・ハマーみたいにエレピとミニ・ムーグだけで渋く決めている方が好きです。

  でも本当に凄いのはジェフ・ベックのほうで、ヤン・ハマーに全然負けていない。たまにどっちがシンセでどっちがギターの方なのか、分からなくなる。音色もシンセと同じくらい豊富に感じる(そんなことはないはずなんだけど)。本当にジェフ・ベックは凄い。ギターだけで何時間も人を楽しませてしまう。こんな人が他にいるのだろうか。いない。人はジェフ・ベックを〈感性のギタリスト〉というけど、感性ってなんだよ。素晴らしい芸術家、仕事人とか言えない。

 このアルバムはフュージョンとか、ジャズ・ファンク、ジャズ・ロックとか言われているんだろうけど、なんかそんな一言で終わらせるのがもったいないスリリングさが、いたるところにある。みなさん騙されたと思って一度聴いてみてください。確かにダサい部分もあるんだけど、本当に「ウワーッ!」と思える部分が絶対にあるから。