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第23回 ─ レイジとレッチリの融合、〈正義の枢軸〉から聴こえる幸福なグルーヴ

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2004/12/24   19:00
テキスト
文/久保 憲司

『NME』『MELODY MARKER』『Rockin' on』『CROSSBEAT』など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る週間日記コラム。今週は元レイジのトム・モレロと、レッチリのフリーが参加した非営利団体〈Axis Of Justice(正義の枢軸)〉のコンピレーション盤について。

V.A.『Axis Of Justice: Concert Series Volume.1』

  これが今年最後の連載です。みなさん楽しんでもらえたでしょうか? ぼくはけっこう楽しんで書かせてもらえました。この連載用に渋谷のタワーによく行くようになりました。というわけで今日もまた渋谷のタワーレコード3階で何かいいものないかな、とぶらぶらしていたらレイジ・アゲンスト・ザ・マシーンとレッド・ホット・チリ・ペッパーズのグルーヴが融合したとんでもない音楽が聴こえてきたので何かなと思ったらこの『Axis Of Justice: Concert Series Volume.1』でした。

 「レイジとレッチリの融合」と思ったのもそのはず、このCDでは本当に元レイジ、現オーディオ・スレイヴのトム・モレロと、レッチリのフリーが参加していました。タイトルの〈Axis Of Justice(正義の枢軸)〉とは、トム・モレロとシステム・オブ・ダウンのサージ・タンキアンが中心となって、不法な戦争、人種差別などに反対する非営利政治団体のこと。50年前レッドベリーやウディ・ガスリーがそうしたように今のミュージシャンたちもそうあるべきだと立ち上がったCDです。

 ぼくは政治的な意味の強いものはあまり買わないのですが、今レッチリのアンソニーの自伝を読んでいてレッチリ・ブームなので、迷わず買いました。思想的な部分を抜きにしても、フリーのベースを聴いているだけで、ぼくは幸福な気持ちになります。トム・モレロの独自なグルーヴ感というか、そのギターを聴いているだけで、楽しく踊り出しそうになるけど、フリーのベースは本当に別格です。このCDにはDVDも付いていて、ロサンゼルスの広場で行われたコンサートの模様が全て収録されています。

 彼らの演奏、グルーヴを感じるだけで、ぼくは自由になるような気がする。何だって出来るような気がする。「このグルーヴのように正直に生きていこう、このメロディのようにやさしく人に接しよう」と思う。でも世の中はそんな人ばかりじゃない。あれだけ「華氏911」が盛り上がったというのに、ブッシュが再選した。やっぱりこれくらいやらないとダメなんだろうと思います。

 〈1984〉や〈1999〉が過ぎて、ぼくたちはどこに行こうとしているのだろう。ぼくはジョージ・オーウェルが「1984年」で描いたビッグ・ブラザー(影の支配者)はいないと思っていた。でもアメリカを見ていると何かビッグ・ブラザーみたいなものがいるような気がしてならない。ビッグ・ブラザーが何なのかぼくはよく知らない、それは資本主義?民主主義?

  ブッシュが再選した翌日、イラクへの大規模な戦闘が始まった。僕たちはそれを阻止する手だてはないのだろうか? 敵は民主主義という偽善を武器に空爆を始める。もちろんケリーが勝っていたら空爆は止められただろう。僕たちも多数決で勝たないとダメなのだろうか? それだと何も変わらないと思う。マイノリティーでも勝つ方法はどこかにあるのではないだろうか?

 すいません、話が変な方向に行って、でもこれから世界はどうなるのでしょうね。ぼくは楽観主義だから何とかなると思っています。というか『Tommy』、『Quadrophenia(邦題:4重人格)』と共にロック・オペラ3部作になるはずだったザ・フーの『Lifehouse』の始まりは世界を一つにするチューン(音、曲)だったそうです。ぼくもそういうのがあると思います。このCDのフリーのベースを聴いているだけでぼくが幸福になるように。何百年後なのかしれませんが、みんなが楽しく一つになって踊る日がくるとぼくは信じています。