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第28回 ─ クボケンが選ぶ、ニューウェイヴ3大ギタリスト

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2005/02/03   15:00
更新
2005/02/07   14:21
テキスト
文/久保 憲司

『NME』『MELODY MARKER』『Rockin' on』『CROSSBEAT』など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る週間日記コラム。今週は、クボケンが選ぶ名ギタリストを3人ご紹介!

2005年2月1日(火) Jeff Beck『Blow By Blow』

  ジェフ・ベックの過去作がオリジナル紙ジャケ仕様で再発されていて、全部揃えたいなという欲望にかられます。しかし、ぼくは基本的にはジェフ・ベックをそれほど好きじゃないのです。でも不思議なことにジェフ・ベックのギターは聴いていて飽きないというか、一度聴くと延々と聴き続けてしまいます。こんなことを書くとファンの人は怒るかもしれませんが、ジェフ・ベックにはエリック・クラプトンやジミー・ペイジのようにロック史に残る名演や名曲、名盤があるわけではない。でも何か神のようにぼくたちの上に光輝いている孤高の人です。

 例えば神様に「君をエリック・クラプトンか、ジェフ・ベックか、ジミー・ペイジのような名ギタリストにしてあげよう。誰に成りたい?」と聞かれたらぼくは迷わずジェフ・ベックと答えてしまうと思うのです。オアシスなども『Definitely Maybe』、“D'You Know What I Mean?”と、どう考えてもジェフ・ベックの曲名からパクったとしか思えないタイトルが2つもある。2つだけですが(笑)。ジェフ・ベックには後100年ギターを練習してもなれません。というわけで、突然なんですが〈久保憲司の5年後にはこんなギタリストになりたい&忘れさられた名ギタリスト3人〉というのをやりたいと思います。オッサンの趣味で今ギターを習っていまして。すいません。

  まず第1位はパブリック・イメージ・リミテッド(以下PIL)のキース・レヴィン。ニューウェイヴ時代、ぼくらの間で彼は〈ニューウェイヴ界のジェフ・ベック〉と言われていました。感性の人という事なんでしょう。ジェフも感性の人とよく言われますが、ぼくは感性という言葉が嫌いです。感性とか言う人って、自分は努力しないで「俺もセンスがあるからあれぐらいのギターは弾ける」とかそういうことを言いがちな人が多いんじゃないかと思っています。今はジャンキーとして隠遁者のような生活をしていると噂されるキース・レヴィンですが、キース・フリークは多いみたいで、レッド・ホット・チリ・ペッパーズが3作目を作るときプロデュサーとしてキースを起用しようとしていたと自伝で語っていました。

 クラッシュのオリジナル・メンバーで変なギターを弾くからクビになったという伝説も輝かしいキースのプレイは、リヴァーブとディレィをギンギンに効かせた、音が外れているかのようなフレーズがたまりません。こういうところが感性とか言われるのでしょうが、彼の中ではちゃんとした音の法則が見えているのだと思います。そうじゃないとただのノイズだから。壁のようなギターシャワーとエッジの尖ったリード・ギターがたまりません。

  アルバムを出す毎ににギターの割合が減っていって(3枚しか出していませんが)、PIL最後のアルバム『Flowres Of Romance』はジョン・ライドンと二人で気が狂ったようにドラムとシンセを叩きまくっただけのアルバムになっています。ぼくは『Flowers Of Romance』なんてただのノイズ・アルバムだと思いますが、聴いたことがない人は〈パンクが行き着くとこまでいった記録〉として聴いておいても損はないのではないでしょうか。この日、本当にパンクという思想が終わったのだとぼくは思います。本人たちは薬でおかしくなっていったんでしょうけど。

  第2位はバウ・ワウ・ワウのマシュー・アッシュマン。日本ではギタリストとして評価されたことは一度もない彼ですが、レッチリのジョン・フルシアンテは、マシューにリスペクトを込めて白いグレッチを弾いています。ぼくはこのマシューと先に紹介したキース・レヴィンが後のゴス、ポジパンのギタースタイルの元になったと思っています。マルコム・マクラーレンの言うがままかどうかだったのかは分かりませんが、アフリカン・ギターを自分のものにし、ロカビリーなスタイルと融合させたマシューのセンスには脱帽します。アフリカン・ミュージックとブロンクスで生まれようとしていたヒップホップの感覚をイギリスならではのバブルガム・ポップにまとめたのはマシューなのです。

 後に彼はセックス・ピストルズのポール・クックとチーフス・オブ・リリーフというバンドを組みました。彼らのライヴは何回か観てるのですが、マシューが歌っているのがよくなかったのか、あまりいい印象を持っていません。でも今ぼくはマシュー・フリークなのでチーフス・オブ・リリーフのCDがあれば買って研究してみようと思っています。

  最後も前者2人と絡んでしまうのですが、スージー&ザ・バンシーズのオリジナル・ギタリスト、ジョン・マクガフ(本当のオリジナル・ギタリストは後にアダム&ジ・アンツに行くマルコ・ペロー二)。マルコ・ペロー二がいた時のスージー&ザ・バンシーズは1回しかライヴをしていないのですが、ドラムはシド・ビシャスでした。シド・ビシャスがいたバンドが〈フラワー・オブ・ロマンス〉、命名者はもちろんジョン・ライドン。といってもこのバンドは一度もライヴをしていません。しかし、このバンドがパブリック・イメージ・リミテッドになったのです。

 おっとジョン・マッケイの話でした。ぼくにとってスージー&ザ・バンシーズと言えば、世間的には全然評価されていない2枚目『Join Hands』だ。しかし、ここにもPILの3作目と同じパンクの行き着く姿がある。ストゥージズのアルバムがイギー・ポップのアメリカへの怒りだとしたら、『Join Hands』はスージー・スーのイギリスへの復讐だ。ストゥージズのような歴史に残る名曲が入ってないのが残念だけど、『Join Hands』がリリースされた時ぼくはこれは最高のパンク・アルバムだと思った。その中で渦巻くようにギターを弾いていたのがジョン・マッケイでした。当時一番かっこいいギタリストだとぼくは思っていた。

 85年くらいにパナッシュという日本だけで売れた外人アイドル・バンドのヴォーカルで、その後はサイキックTV一派になってちょっと頭がおかしくなった人とゴスのようなバンドを作ったけど、もう昔の輝きはなかったような気がする。でももう一回聴きたいな。彼のプレイに興味を持った人は『Join Hands』よりもまだポップな部分が残る一枚目をお勧めします。

  もっといろんなスタイルのギタリストを紹介しようと思ったのですが偏ってしまいましたね。最後に今回紹介した人たちのルーツとなったであろうギタリストを紹介して終わりたいです。まずは、ロキシー・ミュージックのフィル・マンザネラとクリス・スペディングが挙げられるのではないでしょうか。フィル・マンザネラだとイーノが作ったスーパー・バンド、801のライヴかロキシーの初期の作品がお勧めです。1作目、2作目ではイーノの素晴らしいシンセ・サウンドも聴けます。あとは、セックス・ピストルズでスティーヴ・ジョーンズの代わりにギターを弾いていると噂された(デマですよ)クリス・スペディングの、いろんなギタリストのモノマネをしている曲“Guitar jamboree”が入った3作目『クリス・スペディング』がおもしろいのではないでしょうか。古いかもしれないけど、かっこいいですよ。きっと今もこうしているどこかで、彼らのプレイをコピーしながら自分のスタイルを築こうとしている人たちがいると思うと興奮しますね。