ニュー・アルバム発売&レーベル移籍が発表されると同時にアナウンスされた、ゆらゆら帝国の東京&大阪フリーライヴ。4月2日に行われた東京公演は、新曲お披露目ライヴとしての意味だけではなく、これまでの総決算と言えるような内容だった。〈最強の日本語ロック・バンド〉がそのキャリアのピークに達した瞬間をお伝えいたします!

「いやー、良かった」。仕事柄、週に一度はライヴに足を運ぶことによってライヴを観ることに対する緊張感が薄らぎ、〈感動〉みたいなものが麻痺してしまっているような自分が、この言葉をここまで繰り返し言ったライヴはいつ以来のことなんだろう? 4月2日に日比谷野外大音楽堂にて開催されたゆらゆら帝国のフリーライヴは、無料であることが申し訳なくなるほどの充実度だった。
当日の夕方、会場に足を運ぶと入り口にはざっと1000人を超える行列が! 急いで行列に参加し、音響的にベストなポジションをゲットした後、肌寒さを感じながらも早速ビールを2本飲み干す。あたりが暗くなるなか、ステージ上にはいつもどおり、アンプ2セットとドラムセットがポツンと置いてあるだけ。それなのに自分の中で興奮がどんどん高まっていくのは、この日の約1週間前に下北沢SHELTERで行われたワンマンライヴで、バンドの今の状態がすこぶるいいということを知っていたからだ。さらに持参のワインも空になりかけた頃、3人がステージに登場。「あ、ども」の挨拶でライヴがスタートした。
一曲目は新作『Sweet Spot』収録の“ザ・コミュニケーション”。最近のゆらゆら帝国に多く見られる、ギターとベースの単調なリフが絡まるミニマルな曲に続いては、“男は不安定”、“夜行性の生き物3匹”、“アイドル”の3連発。最近の彼らのライヴは“発光体”、“ゆらゆら帝国で考え中”のような、ファンの間でお約束的に盛り上がる曲を避けているように思える。それは、観客が増えると共に大きくなっていったリスナーとの間に生じた誤解を解こうとしているようにも見えるし、キラー・チューンを使わずにライヴ空間を支配しようとするストイックな姿にも映る。「うーん、どうなんだろうか……」なんて考えている間にライヴも中盤に。スローな“恋がしたい”の途中からスピーディーな“ハチとミツ”に流れ、畳み掛けるように“誰だっけ?”が演奏される。いつもそうなんだけど、ゆらゆら帝国のステージは全体の抑揚に対して相当意識的というか考えられていて、流れによどみがない。

真っ赤な照明が3人の影を巨大に写す幻想的な視覚効果と、ヴォーカルを一度PA卓で拾い、そこに深いディレイをかけて飛ばしまくるというダブ的音響処理。さらにアルコールがいい感じに回ってきたせいで、後半はあまり憶えていないんだけど(ごめんなさい)、ファズによって凶悪に増幅されたギターの音の粒が耳の奥で倍の倍になってまた倍になってまた……というイキっぱなしの興奮状態にさせられてしまった。身体を揺らしながら何度も叫び、何の曲をやっているのかもわからない状態にまで持っていかれたところで、“EVIL CAR”でライヴは終了。たとえば、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのブートを聴いて、フィッシュマンズのライヴ・アルバムを聴いて(別にモーニング娘。のDVDでもなんでもいい)、〈このときのライブを観たかった〉と思う瞬間が誰にでもあるだろう。この日のライヴは、まさしくそんな内容で、現場にいなければわからない、その瞬間にしか味わうことができない一回性の意味みたいなことまで伝えてくれる出来事として記憶に残った。
キャリアの長いバンドにとって一番難しいことが〈緊張感を保つこと〉だと思う。その点彼らは、飄々としているように見えて、張り詰めた状態をキープすることをかなりストイックに挑んでいる。そういえば、ゆらゆら帝国が曲の前に「ワン・ツー・スリー」なんてカウントしている姿を見たことがない。メンバーが観客以上にそれぞれの様子を注意深く観察し、それぞれの音を聴き漏らさないようにしていることの証明と言えるんじゃないだろうか。この日のステージには、その集中力と緊張感が集約されていた。これ以上の瞬間が本当にまた訪れるのだろうか。という不安を抱えて今後ライブに向かうことになるような気すら、今はしている。
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