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第39回 ─ 独自性と普遍性、両方の魅力が詰まった紅白兄妹の新作

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2005/06/09   14:00
更新
2005/06/09   16:11
テキスト
文/久保 憲司

『NME』『MELODY MARKER』『Rockin’ on』『CROSSBEAT』など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ久保憲司氏の週間コラムがbounce.comに登場! 常に〈現場の人〉でありつづけるクボケンが、自身のロック観を日々の雑感と共に振り返ります。

2005年6月3日(金) The White Stripes『Get Behind Me Satan』

  「ますますロバート・プラントのような歌声になってきてかっこいいなぁ。クイーンぽさが出てきてから成功したのかな」などと思っていたのですが、全然違っていましたね。過去4枚のアルバムを今まとめて聴き直しているんですが、昔から全然変わっていません。ジャック・ホワイト天才。1枚目とか2枚目とかよくいるガレージ・バンドと変わらないと思っていたんだけど、全然そんなことないよね。自宅で録音しようが、メンフィスで録音しようが、ロンドンのヴィンテージ機材満載のスタジオで録音しようが、何一つ変わっていない。すごい。交互に聴いていたら、ジャケットが似てるし、もう何が何だか分からなくなった。全部いい。

  この人を見つけてきたXLレコーディングの社長は本当にすごいと思う。プロディジーとかやってた人だよ。このXLに投資していたベガーズ・バンケットとか4ADもすごいよね。ピクシーズ見つけてきてビッグ・バンドにしようなんて。シザー・シスターズやキラーズなど、アメリカでシングル一枚くらいしか出していないバンドを見つけてきて、イギリスでビッグ・バンドにするスタイルが流行っているけど……。って、ジミ・ヘンドリックスの時代からそうか。ベートーベンに匹敵する偉大なアーティストを見つけてきたのもイギリス人なんだよな。日本人もそういうこと出来るのかな。

  すいません、ホワイト・ストライプスの話でした。4枚目収録の大ヒット曲“Seven Nation Army”のようなかっこいいリフ曲“Blue Orchid”から始まる新作『Get Behind Me Satan』だけど、全体的にはピアノやマリンバで作られた曲が多いらしく、ちょっとしっとり目。だけど、その辺が5枚目っぽくていいんじゃないでしょうか。ロバート・プラントは、ブルースの原点を求めてモロッコなんかに行っているけど、ジャック・ホワイトのマリンバって、ハワイ、ポリネシアンにもブルースのルーツを探った感じがする。その辺がロバート・プラントよりも一枚上手だな。マーティン・デニーあたりの、〈聴けるエキゾ〉という感じかな。スライド・ギターのルーツはハワイなどのスティール・ギターなんだよな。

  クイーンが初来日したとき、ぼくは12歳くらいで、神戸の国際会館とかそういう所で観た記憶がある。1曲目の“Now I'm Here”のギターの刻みが入ってきて、観客一同ウワッーとなって、そしてドカーンと幕が降りるとメンバーの4人が立っているというオープニング。あの感動は一生忘れません。ジャック・ホワイトも子供の頃にそういう70年代の洗礼を受けているのかなぁ。そんな部分がガレージ・バンドからビッグ・バンドへ成長させたのかなと思っていたけど、新作を聴くとそんなところが一切ない。でもじゃあ、オリヴィア・ニュートンジョンのカヴァー“Jolene”は何だったんだろう。カントリー&ウエスタンなのかな。

  ジャック・ホワイトの情熱は、ある種のモノが生まれる時──それはブルースでもイスでもレスリー・スピーカーでも何でもいいんだけど──その時のエネルギーとか、ミステリアスな力みたいなものに魅了されているんだろうな。それをポップスとして転化させ、ぼくたちを楽しませてくれる能力。それが本当にすごい。それはまだまだこれからも続くんだろう。早くも次のアルバムが聴きたくなってきた。