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第41回 ─ 最高の演奏が10年分詰め込まれたグラストンベリー・フェスのDVD

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2005/07/06   19:00
更新
2005/07/07   18:42
テキスト
文/久保 憲司

『NME』『MELODY MARKER』『Rockin’ on』『CROSSBEAT』など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ久保憲司氏の週間コラムがbounce.comに登場! 常に〈現場の人〉でありつづけるクボケンが、自身のロック観を日々の雑感と共に振り返ります。

2005年7月4日(月) DVD「GLASTONBURY ANTHEMES」

  フェスの季節が近づいてきました。来年はグラストンベリーがないので今年行こうかなと思っていたのですが、やっぱりなんとなく行きませんでした。オッサンだから。ニュースで見たんだけど、集中豪雨が来てキャンプ・エリアが大変なことになったみたいです。あそこまで浸水したのは見た事ないです。いつもグラストンベリーは何かありますね。でもみんな楽しそうでした。

 「ウッドストック 愛と平和と音楽の3日間」のDVDがタワーレコードで期間限定980円で売っていたので、買ってみたのですが、フェスで泥んこになるというのはウッドストックからの伝統と言ってもいいんじゃないでしょうか。映画の中で嵐が通りすぎる場面が出てきてそこは本当に感動しました。この感動はフェスに行ったことがない人にはわからないかもなあ。でも一番感動するのは、お客さんが来すぎて、収拾がつかなくなってフリー・コンサートにすると決断する時の緊張感です。涙が出ます。

  そのDVDに出てくるウッドストックの司会の人がジャック・ケルアック「路上」に出てくるニール・キャサディみたいでかっこよかった。カウボーイ・ハットをかぶっていて。フジロックの日高さんもカウボーイ・ハットとか麦わら帽がよく似合うけど、日高さん、あのウッドストックの司会の人に影響されているのかな。日高さんは絶対あの映画を興奮して見てる世代だと思うし。そんな人が日本のウッドストックを作っているって凄いよな。

 ウッドストックのその後を描いた映画「マイ・ジェネレーション」もなかなか感動しました。ウッドストックのオーガナイザー、マイケル・ランドーが一度ウッドストックを立ち上げようとするんだけど、現在のアメリカという文化が作らせないという話。マイケル・ランドーが、怒ったりせずじっと状況を観察している。カオス的状況だった一番最初のウッドストックの時も全然冷静でかっこいい。僕だったら絶対キレてる。きっと、上流階級のいい所のおぼっちゃんなんだろう。でも凄いロックな人だ。というか上流階級の教育、芯が強い男であれとか、何があっても諦めるなとか、人のことを思いやれとか、リーダーを育てようとする教育の賜物なんだろうな。

  DVDの「ウッドストック 愛と平和と音楽の3日間」を見て何が衝撃かといったら、今のフェスと全然変わらない所。もっとヒッピーなボケボケ、アホアホ・イベントかと思ったらそんな感じじゃなかった。真面目な少年、少女たちが何かを求めに来ているという感じだった。このDVDを、今回紹介するグラストンベリーの歴史を詰め込んだDVD「グラストンベリー・アンセムズ」と見比べてもらいたい。進歩していないことに愕然とすると思う。進歩がないというのは大げさか。DVD「グラストンベリー・アンセムズ」を見たらロックは当時よりもっと有効な若者の武器になってると思うし、あの「ウッドストック 愛と平和と音楽の3日間」の映像からはロック、というかサイケデリックな革命が煮詰まりだしているのがよく分かる。

 植草甚一さんがどこかのエッセイで、「なぜジミ・ヘンドリックス、ジャニス・ジョップリン、ジム・モリソンが死んだのか」という原稿を書いていた。そこには、「次の展開が出来ず煮詰まったからだ」と書いてあって、その鋭さに感心してしまった。あの人の文章は全部外国の記事を翻訳して書いているだけだけど、本当に何が起こっているかよく分かっていた人だ。モンタレー・ポップ・フェスティバルでの生き生きした感じから、たった2年足らずでロックは煮詰まってしまうのです。オルタモントで人が殺されたことが理由なわけじゃない。ロックは一瞬にして煮詰まってしまった。

 でもDVD「グラストンベリー・アンセムズ」を見るとロックはまだまだ元気です。ビートたけしさんが笑いの歴史を振り返ってその進化はらせん階段のようだと言っておられます。平面の視点だと同じことを繰り返しているように見えるけど、立体的な視点を持つとその〈同じこと〉はどんどんと上に上がっていっている。「グラストンベリー・アンセムズ」を見ていてロックの世界もそうなんだと思った。ここ10年の英米を代表するロック・バンドが世界で一番最高の場所でのびのびとプレイする姿を楽しんでください。ロックがなにかを変えることが出来るなんてぼくは思わないけど、こんなに自由になっている人たちを見てるとぼくももう少し自由に生きれるんじゃないかと思えてくる。