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第47回 ─ 止まることなく挑戦を繰り返すフランツ・フェルディナンド

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2005/09/29   20:00
テキスト
文/久保 憲司

『NME』『MELODY MARKER』『Rockin' on』『CROSSBEAT』など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る週間日記コラム。今回は、アルバム1枚でUKロック界を制したフランツ・フェルディナンドの新作について。

  NMEが大々的に〈このバンドが人生を変える!!〉と大プッシュしてシーンに登場したフランツ・フェルディナンド。ぼくの彼女はその大宣伝文句に無茶苦茶期待してシングルを買ったけど「これが!?」とずっこけていた。ぼくはけっこう80年代なメロディをうまく自分たちのものにしているなと気に入っていた。特に彼らのライブが好きだ。ギターのアレックスが、ジョセフK、オレンジ・ジュースのマルコム・ロスのような、ツボにハマったいいバッキング・ギターを弾くのを見ていると最高に楽しくなる。チープなビザール・ギターで音もいいんだよね。そういうところがスコティシュ・バンドだよなぁ、とうれしくなる。今作はデビュー・アルバムと比べると結構ロック。フランツの特徴であるマイナー調の曲を全然やらずに、メジャーな曲調でグイグイ突き進む感じがかっこいい。曲間が短いので聴いているとどんどんテンションが上がる。

  しかしこの手のバンドはセカンドが難しい。ストロークス、キングス・オブ・レオン、オーディナリー・ボーイズなどは1枚目よりもいいアルバムを作っているのに2枚目で結構苦戦しているような気がするのが残念だ。で、フランツはどんなんだろう? オアシスは2枚目の時〈こんな暗いアルバムはクソだ〉とイギリスのプレスからけなされまくったけど、アメリカでブレイクしてビッグ・バンドへの道を歩み始めた。オアシスとかリバティーンズとかホワイト・ストライプスとかレディオヘッドとか、〈ロックを背負ってやるぜ!〉というバンドの精神性がブレイクし続けた一番の理由だとぼくは思う。なので、フランツは今作で〈新しいことも出来るぜ!〉というよりも、80年代を〈背負ってやるぜ!〉という方向で攻めた方がよかったんじゃないだろうか。ベックみたいに、どこまでもグルーヴィーでポップみたいな方がよかったんじゃないだろうか。

  ブリット・ポップからたった10年で、またシーンが活性化しているからイギリスのロック・シーンはおもしろい。これって、シングルのマーケットがまだ残っていることが原因なんじゃないかと思っている。フランツ、キラーズ、ブレイヴリーなど、本当にいいシングルを作ってきて、チャート争いに勝ってきたことにリスペクトをぼくは感じる。これは何回もここで書いたことかもしれないけど、インディーだろうがなんだろうが、ちゃんとミュージック・ビジネスという一つのマーケットの中で勝負してやろうというところがえらい。例えばキラーズのシングルは、〈お前の元カレ女みたいなやつやったな~♪〉みたいに下世話な内容かもしれない。でも、キンクスの“Lola”だってそういう歌だろ。

 フランツはまだまだ挑戦していくのだろう、俺たちは勝者だなんて思っていない、これからもどんどん変わっていく。このアルバムは、そういう点でロックだなと感じさせてくれるのだ。