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第50回 ─ メタルもプログレも巻き込んで、ロックの到達点を目指すマーズ・ヴォルタ

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2005/11/10   16:00
更新
2005/11/10   18:44
テキスト
文/久保 憲司

『NME』『MELODY MARKER』『Rockin' on』『CROSSBEAT』など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、怒涛の演奏をパッケージングしたライヴ・アルバム『SCAB Dates』をリリースしたマーズ・ヴォルタについて!

2005年11月7日(月) The Mars Volta『SCAB Dates』

  DMBQのドラムの方がアメリカ・ツアー中に交通事故で亡くなられました。関係者の方々は大変つらい思いをされていると思います。イースタン・ユースも昔アメリカ・ツアー中に交通事故にあわれました。過酷なツアーの中ではそういうことが起こってしまうことがあるのでしょう。とても残念です。

 ぼくも昔(イギリスでアシッド・ハウス全盛の頃)、花房浩一さんとミッチ池田さんとグラストンベリー・フェスティバルに行って、帰りに事故にあいました。オールナイトでイベントが終わったあと、ぼくは危ないからちょっと寝て行こうと提案したのですが、花房さんがどうしても早く家に帰りたいと言って結局そのまますぐ帰ることになったのです。ぼくがふて腐れて後ろで寝ながら花房さんの「ミッチ寝てていいよ」という声を聞いた瞬間、車が中央分離帯に乗り上げて一回転しました。しかし車は奇跡的に元の体勢で止まったのです。ぼくは「そらみた事か」ともっとふて腐れて、2人がタイヤを替えている間もずっと寝ていました。そういう自分もどうかと思うけど、でもやっぱり危ないことはしない方がいいと思う。ぼくはこの仕事をいつまでも続けたいし。バンドの方々はきついスケジュールの中大変だと思うけど、無理しないように頑張ってください。

  マーズ・ヴォルタのCD3枚をiTunesに入れたら、デビュー・アルバム『De-Loused In The Comatorium 』のジャンルがオルタナティヴで、セカンド『Frances The Mute』がメタルで、そしてこのライヴCD『SCAB Dates』がロックになっていて、笑ってしまった。

  MC5にゴスを足したようなアット・ザ・ドライヴ・インが大好きだった。セドリックとオマーのアフロにやられていた。「MC5をやればいいのさ、MC5より凄いバンドがあったかい? MC5を超えるバンドになればいいのさ」と言っているかのような単純明快なメッセージがかっこいいと思っていた。しかしぼくは、マーズ・ヴォルタのライブは大好きだけど、マーズ・ヴォルタはMC5の3枚目のアルバムと同じことをしてしまっているんじゃないかと思っていた。フリー・ジャズやアフリカン・ミュージックを取り入れて新しい音楽を生もうというのはよく分かる。でもそんなバンドは売れないじゃないか。オマー、セドリック、お前たちはそっちに行ったらだめだろ。MC5の凄さとは爆発するロックン・ロール、誰もが到達できないエッジの尖がったワイルドさ、でもよく聴くとリズムはR&Bじゃないか。ポップ性も忘れていない凄さを追求しないとダメじゃないかと思っていた。間違ってました。これは凄い。

  MC5は売れなくって2枚目でアメリカのロックを追求しようとした。そしてそれも売れなくって、もっと自分たちの好きなことをしようとフリー・ジャズからアフリカン・ミュージックまで取り入れてもっと売れなくなって解散した。マーズ・ヴォルタは、MC5の3枚目の意思を引き継ぎながらも、ポップ・ミュージックとして機能させようとしている。彼らのチャート・アクションが結構いいのは、マネージャーのジョン・シルヴァの敏腕ぶりが発揮されてのことだと思っていたんだけど、違うね。セドリックとオマーは確実にわかっている。2枚目のジャンルがメタルというのも納得する。そこまでの層も取り込んでいるし、プログレッシヴ・ロック・ファンも「オッ!」という瞬間がいくつもある。素晴らしい。でもやっぱりマーズ・ヴォルタが素晴らしいのはこんなアンダーグラウドの音をどこかポップに感じさせてしまうところなんだと思う。

  もっと突き進もうとアット・ザ・ドライヴ・インをあっという間に解散させ、新しいロックの誕生を夢見たマーズ・ヴォルタの試みは見事に成功している。この3枚目のライブ・アルバムはそんな彼らのロックの実験、ファースト、セカンドで言い足りなかった、「ロックはどこまで行けるのか?」という答えの一つであり、出さなければならないものだったのだろう。唯一残念なのはセドリックの声量が少ないので、ライヴで感じるよりヘヴィさが欠けている点だ。でも十分楽しめる。まだまだ引き出しの多そうなマーズ・ヴォルタ。今後も楽しみだ。