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第9回 ─ スウィート・スウィート・ソウル

第10回 ─ スウィート・スウィート・ソウル(2)

連載
IN THE SHADOW OF SOUL
公開
2006/02/09   21:00
更新
2006/02/09   21:39
ソース
『bounce』 271号(2005/11/25)
テキスト
文/林 剛

ESSENTIALS 人工甘味料は使用していません

THE CHI-LITES 『The Chi-Lites』 Brunswick(1973)
シカゴのスウィート・ソウルといえば、やはりこの人たち。甘茶な名曲なら先日もポール・ウォール“Girl”で早回し引用されたばかりの“Oh Girl”となろうが、ここでは同郷の後輩にあたるコモンの“The Food(Live)”で再利用された美バラード“I Never Had It So Good”を含むこのアルバムを紹介しておこう。故ユージン・レコードの〈甘く、切なく、やるせない〉作曲センスはソウル界屈指のものだった。

THE EBONYS 『The Ebonys』 Philadelphia International/ソニー(1973)
フィリーの対岸にあるニュージャージー州キャムデン出身のグループ。バリトン、ファルセット、テナー、女声が四つ巴となってギャンブル&ハフらの作るフィリー・サウンド上で大爆発した作品で、珠玉のスウィート名曲“It's Forever”はトレイ・ソングズ“Gotta Make It”でメロディーが丸ごと引用されていた。“You're The Reason Why”もエイメリーのデビュー曲のリミックス版で甘~く早回し。

THE ESCORTS 『The Greatest Hits』 Empire 
ニュージャージーの甘茶職人、ジョージ・カーが刑務所に服役中の囚人を集めて獄中録音……というトピックでお馴染みのエスコーツ。ミラクルズやデルフォニックス曲の激甘カヴァーにも挑戦した彼らの70'sベストにはパブリック・エネミーのネタ曲なども含む。とはいえ、いまならジル・スコット“Family Reunion”で使われた気怠げな“Look Over Your Shoulder”(オージェイズのカヴァー)を愛でたい。

HAROLD MELVIN & THE BLUE NOTES 『Harold Melvin & The Blue Notes』 Philadelphia International/Right Stuff(1972)
フィリー・ソウルの雄によるPIRでの初作は、全編スロウ・バラードという甘茶志向の作品。5年も前のことだが、カニエが早回しを始めた頃に(ジェイ・Z“This Can't Be Life”で)ネタ使いしたのが、本作収録の“I Miss You”だったというのは興味深い。テディ・ペンダーグラスが語りのような歌を乗せていく“Be For Real”はジャジー・ラップの先駆けとも言いたい逸品だ。

LENNY WILLIAMS 『Spark Of Love』 ABC/Pヴァイン(1978)
タワー・オブー・パワーの元リード・シンガーによるソロ4作目。ガラージ方面からも再評価される本作だが、ここで注目したいのはトゥイスタ“Overnight Celebrity”の元ネタであるモータウン時代のバラード“Cause I Love You”の再演版。カニエ・ウェストの早回しで甦った同曲が泣きの名曲として語り継がれる彼は、以前スタイリスティックスと“People Make The World Go Round”が競作となったことも。

MAJOR HARRIS 『My Way』 Atlantic/ヴィヴィド(1974)
ボビー・イーライらMFSB一派が脇を固めた、元デルフォニックスのメンバーによるファースト・ソロ・アルバム。ジョン・レジェンドがルーサー・ヴァンドロス経由でリメイクしたフィリー・スウィート曲“Love Won't Let Me Wait”が最大の話題曲だろうが、ブルー・マジック版がヒットを記録した“Sideshow”もシリーナ・ジョンソン“Bull's-Eye(Suddenly)”で引用、新鋭クリス・ブラウンもネタ使いするなど人気再燃の兆しだ。

THE MANHATTANS 『Kiss And Say Goodbye : The Best Of The Manhattans』 Columbia 
ジョージ・カーの制作でイナタいスウィート・ソウルを歌っていたこともあるマンハッタンズ。新リードにジェラルド・アルストンを迎え、大ヒットした“Kiss And Say Goodbye”など、フィリーやシカゴで録音された本ベスト収録曲も甘美なメロディーを持ったナンバーが多い。シリーナ・ジョンソン“Classic Love Song”で“There's No Me Without You”が引用されたのも記憶に新しいところ。

THE MODULATIONS 『It's Rough Out Here』 Buddah/ヴィヴィド(1975)
後にプレリュードで活躍するウィリー・レスターとロドニー・ブラウンが在籍していたノース・キャロライナ出身の4人組。MFSBをバックにフィリーで録音された本作は、バリトン野郎が暴れ狂う爆裂ダンサーも凄いが、ファルセットが主役のスウィート曲も素晴らしい。コモンは“It's Your World”にやるせないムードを導入すべく、インストの“Share What You Got, Keep What You Need”を下敷きにしていた。

THE STYLISTICS 『The Stylistics』 Amherst(1971)
言わずと知れたフィリー・スウィートの金字塔的アルバム。トム・ベル制作による収録曲の数々は再利用率もすこぶる高く、最近もマイク・ジョーンズ“Scandalous Hoes”で“You Are Everything”のエレキ・シタールが悩ましげに鳴り響いていた。ラッセル・トンプキンスJrの甲高いファルセットも特徴的だが、リトル・ブラザーの近作では他アルバム収録曲の〈声〉が丸ごと引用されていたりも。

THE WHATNAUTS 『Message From A Black Man』 Sanctuary 
モーメンツと並ぶニュージャージー・ソウルの甘茶グループ。スウィートだけどビターな歌声を持ち味とする彼らだけに、このアンソロジーには定番ブレイクビーツ“Why Can't People Be Colors Too?”などイナタくもドリーミーな楽曲が満載だ。やるせなさ全開の“I'll Erase Away Your Pain”はカニエ・ウェストが“We Can Make It Better”で引用&早回し、のみならずネタに合わせていっしょにハモってます。