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第72回 ─ TRUE ROCKS - STAY TRUE LIVE 2006年5月20日(土)

連載
ライヴ&イベントレポ 
公開
2006/05/30   18:00
更新
2006/06/08   15:50
テキスト
文/ヤング係長

 大田区に居を構え、日蓮が亡くなる前の数日を過ごしたと言われている池上本門寺。本堂までの急な階段を上り終え、境内を越えてライヴ会場に着くと、そこは周りを木で囲まれた、まさしく〈東京とは思えない〉という言葉がしっくりくる景観が待っていた。……とはいえ、当日は開始1時間前にそれまでの晴天が急変して激しい夕立。雨のために開催すらも危ぶまれていたものの、ライヴは無事行われることが決定したのでした。

 ゲートをくぐって会場をしばらく散策していると、ステージ上に現れたのはLevi's謹製〈ジーンズ作務衣〉を着た和尚さん。ライヴの前に説法&作務衣の着心地の話(体に馴染むそうです)をありがたく拝聴させていただいた後、トップバッターとして登場したのは風味堂。天候が天候だけにやりづらいだろうなあ……と思っていたけれど、1曲目“ナキムシのうた”からパワフルな演奏とハンドクラップで観客を煽りまくる。レンジが広くメロディアスなベースと跳ねるドラムの組み合わせにしょっぱなから踊るお客さんも。ネガティヴな要素を跳ね返すだけの陽性なパワーを出しまくっていた。〈旬のアーティストが、自身の曲に交えて伝説のミュージシャンの楽曲を披露する〉というイベントの趣旨に沿って、ラスト曲では「僕らのバンドにはギターがいないので、ゲストを迎えてカヴァーをやります」とMAMALAID RAGの田中拡邦を紹介。それまでの演奏とはガラっとカラーを変え、ジミ・ヘンドリックス“Little Wing”を忠実にカヴァー。


斉藤和義

 風味堂と入れ替わりでメンバーがステージに上がり、MCもなくそのまま演奏に移ったMAMALAID RAGは、イベントに合わせてか全体的にロック感強めのセット。彼らは〈耳障りのいいポップスを作る職人〉といったパブリック・イメージを抱かれているし、実際にそういう面があるとは思うんだけれど、ライヴではいつもそれ以外の面のほうが強い印象を残す。所々で見せる複雑なリズムはフュージョンを感じさせるし、田中のギター・ソロは往年のクラプトンのようだ。そんな要素が積み重なってできる彼らのサウンドは、なんともいえないレイジーな雰囲気がにじみ出ていた。

 そうこうしているうちに雨は徐々に弱まり、斉藤和義が登場した頃にはすっかり止んでいた。キセルの辻村豪文と初恋の嵐の隅倉弘至を迎えた3ピースでの演奏は、いつも以上に斉藤のヴォーカルが生々しく響き、彼のフォーク感が引き立っていた。歓声が上がっていた“歌うたいのバラッド”がグレーの空に広がっていくのが印象的でした。


田島貴男

 続いて登場したのは田島貴男。近年は〈俺っぷり〉がどんどん発達して最高な彼は、この日も飛ばしっぱなし。どよめきを持って迎え入れられた1曲目“接吻”の次、エレキ・ギター+ボトルネックでの弾き語りで“ティラノサウルス”を披露。効果音のようにウネウネした音のみをバックに、過剰な抑揚をつけたヴォーカルが響く。微妙に音程を外しても突っ走る姿は壮観と言ってもいいほど。ピアノでカヴァーした俺解釈の日本語詞“さよならルビー・チューズデイ”(ローリング・ストーンズ)、“Be My Baby”(ロネッツ)もストレンジで最高。


佐藤タイジ

 ラストはTHEATRE BROOKの佐藤タイジ。この日はベースに中條卓、キーボードにエマーソン北村、ドラマーに恒岡章を率いて、佐藤タイジ STAY TRUE SESSIONS名義での出演となった。キャロル・キングの“It's Too Late”のカヴァーでスタートした彼らは、最初っから最後まで曲の重心がものすごく低い。ほぼ全ての曲の途中からセッションに移り、佐藤タイジがギター・ソロを弾きまくる。深いディレイをかけたスペイシーな構成から一変して激情的なシャウトを聴かせ、またフリーキーなソロへと戻っていく。その瞬間ごとが、全く申し訳ないそぶりも見せずに「僕らは好きなことしかやってないんで」とMCで言いながら笑った佐藤タイジにとって気持ちがいい瞬間なのだろう。個人的には、ダブのようにズブズブなベースの上に乗るエマーソン北村のキーボードの妙技がツボ。特にラスト曲、ボブ・ディランのカヴァー(をジミヘンがしたヴァージョンのカヴァー)“Like A Rolling Stone”の印象的なオルガン・フレーズにはゾクゾクさせられてしまったほど。

 4時間にも及んだこのイベント。雨で濡れてしまったせいで冷え込み、途中何度も帰ろうかと思ったのは事実なんだけれど、夜が深まるに連れてライヴハウスでは味わえない高揚感に襲われた。もっとこんな場所が東京に増えるといいのに……無責任にそんなことを考えつつ、今後もこのイベントが続いていくことを期待してしまいました。


※このイヴェント「TRUE ROCKS-STAY TRUE LIVE」がスペースシャワーTVで放送されます

・TRUE ROCKS-STAY TRUE LIVE
初回放送日時:2006/6/15(木)23:00~24:00
リピート放送:6/16(金)21:00、6/18(日)18:00、6/19(月)12:00

▼ 出演アーティストの主な作品をご紹介