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第63回 ─ ロックンロール回帰を目指したプライマル・スクリーム

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2006/06/01   20:00
更新
2006/06/01   22:05
テキスト
文/久保 憲司

『NME』『MELODY MARKER』『Rockin' on』『CROSSBEAT』など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、プライマル・スクリーム約4年ぶりの新作『Riot City Blues』をご紹介。

Primal Scream 『Riot City Blues』

  1曲目“Country Girl”をラジオで聴いた時、ついにプライマルも売れ線を目指したかと思ったけど、家で聴くと今までのどの作品よりもヴェルヴェット・アンダーグラウンドしていてかっこいい。

 〈売れ線を目指した〉と思ったのには理由がある。日本においてプライマルは現代のロックのアイコン、良心だと思われているけれど、イギリスでは微妙な位置にいた。元プライマルのマネジャーでもあり、所属レコード会社〈Creation〉の社長でもあったアラン・マッギーが自身の伝記かなにかで〈『EXTRMINETER』、『Evil Heat』は誰もが夢みたミニマルでエレクトリックなパンクの完成形だ。プライマルは今2度目の頂点にいるんだ、そんなことが出来たバンドなんていない。そんなバンドがレコード契約もなかったんだから〉と書いていた。マジかよ、と思ったんだけれど、そうだったのだろう。外国はシビアだから。って日本もか。でも、こうしてCDが出たんだからよかった。

 で、“Country Girl”の歌詞を読んでびっくり。これは自分自身を歌っているのでした。


  おまえはそんな大物になりっこない
  そんな重要になりっこないし
  そんなクールにもなりっこない
  哀れな坊やに何が出来る?
  ママのところに帰った方がいいよ

カントリー・ガール
  だけど持ちこたえて行かなきゃダメなんだ


  うっわー。『Screamadelica』で見事にイギリス、いやヨーロッパのアシッド・ハウス世代の若者の気持ちを代弁した彼ら。そして次の『Give Out But Don't Give Up』では、アシッド・ハウスを超えた新しいロックを生もう、そしてU2よりもどんなロック・バンドよりもビッグになろうとした。さらに、『Vanishing Point』、『Extermineter』、『Evil Heat』でどんなアンダーグラウンドなバンドよりも過激な音を完成させ、アシッド・ハウス以降の若者たちの気持ちも歌にした。そんな、時代を作り、時代を変えてきた彼らがこんなことを歌ってロックンロールに戻ってくるなんて泣けてきてしまう。U2も原点に戻ったけれど、ぼくはプライマルの方がグッとくる。

  4月6日に行われたアストリアのライブでは、ボビーを除く最後のオリジナル・メンバーだったスロッブが、ついにステージに立たなかったそうだ。代わりにリトル・バーリーのギター、バーリー・ギャドガンがこれからのライブには参加するらしい。ボビーがイギリスの新聞オブザーバーに対して「スロッブはいくつかの個人的な問題を抱えている。いま彼はそれらに対処しているんだ」と語っている。多分ツアーに出るとアルコールやらドラッグやらが簡単に手に入ってしまうから、そんなものと完全に手を切って欲しいんじゃないだろうか。そして、その最も効果的な解決策は、ライヴ会場に近づかないことだということなのだろう。新作でもかっこいいロックンロール・ギターを弾いているだけに残念な話だ。早く戻ってきてほしい。

  もう一つ残念なのが、ケヴィン・シールズが恐らくプライマル・スクリームを離れてしまったことだ。これからのプライマルはボビーを中心としたジョージ・クリントン~P-FUNKなロックンロール集合体となっていくのかもしれない。MC5やジョニー・サンダースのカヴァーを聴くと、〈ロックンロールに全ての答えがあるんだ。愛を、リスペクトを注ぐんだ〉というスタイルになっていくような気がする。どんなバンドになっていくのかはまだわからないが、またプライマルの新しい時代が始まったのは間違いない。そしてそれは、いままでのプライマルよりもっと力強くなっていくのだろう。