こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

NEWS & COLUMN ニュース/記事

第82回 ─ パンク/ハードコアからの影響が透けて見えるクラクソンズとニュー・レイブ

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2007/03/01   13:00
更新
2007/03/01   18:46
テキスト
文/久保 憲司

『NME』『MELODY MARKER』『Rockin' on』『CROSSBEAT』など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、巷を賑わせている〈ニュー・レイブ〉ムーヴメントの立役者、クラクソンズのデビュー・アルバム『Myths Of The Near Future』について。

KLAXONS『Myths Of The Near Future』

  とにかく凄い盛り上がりを見せているイギリスのロック・シーン。昔はその時の旬なバンドがイギリス・ツアーしてもロンドンと地元くらいしかソールド・アウトしなかったのに、今は「えっ、こんな場所まで」と思うくらい、ツアーの半分以上がソールド・アウトしている。

昔(20年以上前ですが)は好きなバンドをロンドンで見ても人が一杯で楽しくないから、ロンドンから2時間くらいの場所に見に行ったりしていた。そうするとロンドンではおしくら饅頭状態で見なければならなかったのに、地方では余裕で一列目で見れたりして楽しかった。地元の子と喋れるのも面白かった。
 
イギリスは交通費が安いし、場所によってはロンドンに戻れる電車が0時30分くらいまであったりする。朝3時にロンドンに着いてもナイト・バス(24時間営業)があって何の問題もなかった。問題があるとすると、日本みたいにその地方独特のおいしい食べ物がないことだ。どこ行っても同じ食べ物、ケバブとフィッシュ・アンド・チップス(地方の方がワイルドでおいしいけど)、インド、チャイニーズ。ロンドンと味がそんなに変わらない。

クラブ・シーンが盛り上がっていた時は、ポーツマスとかノーウィッチとか「それ、どこやねん」という場所で毎週何千人規模のパーティーが行われていたわけだから、そのマーケットがそのまま移行したと思えば別に何の不思議でもないのだが、完全にイギリスの若者はターンテーブルからギターに楽器を持ち替えたみたいだ。

  と思いつつも、きっとブリット・ポップの時と同じような終焉を迎えるんだろうなと思ってぼくは冷めた目で見ていたのだが、このクラクソンズ、ホラーズ、エンター・シカリという新しいバンドを見てると、何か面白い方向に転がっていくんじゃないかという気がしてきた。

  クラクソンズ。〈ニュー・レイブ〉といいながら音は完全に色んなジャンルのごっちゃまぜ。シングル曲はレイブというかハードコアなフレーズが煽ってくれるけど、全体的にはガレージ・パンクと今のイギリスのロックな音がかっこいい。“Isle Of Her”“Forgotten Works”みたいに、カート・コバーンが「彼らも最後はディスコになってしまった」とバカにしたギャング・オブ・フォーの3枚目のような曲もあって笑える。 ぼくはこの時代のギャング・オブ・フォーが大好きなので、なかなかやるなと思っている。“As Above So Below”も『Scary Monsters』の頃のボウイみたいで趣味いいと思う。

  このごちゃ混ぜ感が今のバンドの特徴だ。ホラーズにしても、ゴスなバウハウスとサイケデリック・ガレージのカウント・ファイヴは普通なら同居しないだろうと思うんだけど、うまく同居させている。今までだったら、ゴスが好きならゴス一筋な感じになっていたはずなのに、彼らは違う。エンター・シカリもそうだ。スクリーモが好きな奴らは絶対トランスなんか聞かなかった。

クラクソンズには会ったことはないんだけど、エンター・シカリ、ホラーズに会って思った彼らの共通点は、DIYの精神。こういう音楽をしたいという思いより、音楽をやることによって何かを変えたいんだという気持ちが根本にある気がする。それが彼らの音楽をほかのバンドよりも面白く、興味深くしているとしか思えない。

  エンター・シカリのあのガラスを割るアーティスト写真は間違いなく、ハードコアの名盤であるブラック・フラッグの『Damaged』だと思う。ホラーズのメンバーがみんな黒い服を着るのも、同じことだと思う。そしてクラクソンズの〈ニュー・レイブ〉というのもそういうことなんだろう。ヒッピー、パンク、レイブ、彼らが生まれる前や子供の頃に起った革命の伝説を彼らも受け継ぎたいのだ。これら伝説の引き金となった精神がDIYだと彼らは気づいているのだ。

ロック・バブルに浮かれるイギリスからこういうバンドが出て来ているのは面白いなと思う。パンクの後、スペシャルズ、バウハウス、デキシーズ、ヒューマン・リーグなど色々なバンドが出て来たあの感じに近いような気がぼくにはする。これらのバンドも音楽は違えど、共通点はパンクという精神だった。

  これからどうなるんでしょうね。5月に予定されているクラクソンズのツアー最終日・ロンドン(もちろんソールド・アウト)の会場は、レイブが行われるようなへんぴな場所じゃなくて、普通にシェファーズ・ブッシュ・エンパイア。ストーン・ローゼズはそれまで誰もやらなかったブラックプールの古ぼけた会場(ホワイト・ストライプスのライヴDVDと同じ場所です)で6千人集めてやったんだけどな。もっと頑張れという気もするし、見に行こうかなと思ったりもしている。本当に今イギリスは面白そうなのだ。