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第81回 ─ INO hidefumi LIVE SET vol.3@LIQUIDROOM ebisu 2007年3月31日(土)

連載
ライヴ&イベントレポ 
公開
2007/04/10   13:00
更新
2007/05/07   19:57
テキスト
文/澤田 大輔

エレクトリック・ピアノの名器〈フェンダー・ローズ〉をフィーチャーしたデビュー・アルバム『Satisfaction』が絶大な人気と評価を獲得、発売から10ヶ月を経た今もなお驚異のロング・セールスを記録し続けているINO hidefumi。彼の東京では初となるライヴ・セットが、3月末に恵比寿リキッドルームにて行われた。アルバムで聴かせた端正なサウンドとは一味違う、ダイナミックなグルーヴが炸裂しまくった当日の模様をレポートいたします。

  ついに実現した東京での初ライヴ。猪野秀史の顔もよく知らぬまま、ただCDや7インチの音だけに惹かれてやって来た……みたいな人も少なくなかったはず。何が起こるかわからないステージ上に、超満員のひときわ強い視線が注がれる中、いよいよ姿を現した猪野その人は、まずは客席に向けて丁寧な一礼。そしておもむろにシンセに向かい、フリーキーな電子音を操り始めた。その律儀な物腰と暴力的なサウンドとのギャップが、妙なおかしさと高揚感を掻き立てる。電子音がダブ・エフェクトによって増幅され、フロアいっぱいに膨らんだ瞬間、“Madsummer Reminiscence”の旋律が滑り出した。タイトなドラムとベース、そしてロマンティックなフェンダー・ローズ。トリオ編成で繰り出される生身のINOサウンドに大きな歓声が沸きあがる。

  ヒップホップを通過したドラムの質感や、ヴィンテージなロックステディを思わせるロウでラフなミックス具合など、アルバム『Satisfaction』は、音の手触りに対する徹底的なこだわりがあってこそ成立した作品だった。それだけに、安易な形で再現すると、単なるイージー・リスニングに堕ちてしまう危険性を孕んでいたと思う。だが猪野は、おそらく周到に準備を重ね、微妙なバランスを保ったあの音像をライヴの場で見事に鳴らしてみせた。しかも、圧倒的にフィジカルで躍動感あふれる演奏を持ってして。アルバムではクールな装いを見せていた楽曲の数々に、あんなにも熱気に満ちたグルーヴが吹き込まれるなんて!


  この日の猪野は、自身の代名詞ともなったフェンダー・ローズだけでなく、実に様々な楽器を奏でてみせる。ヴィブラフォンにメロディカ、アフリカの親指ピアノなどをとっかえひっかえ抱え込み、果ては蛇腹ホースを振り回す。それらの多彩なサウンドを組み合わせながら、“さくら さくら”や会場地・恵比寿のテーマ(?)“第3の男”などのフレーズを楽曲の端々に挟み込んでいく、そんなライヴならではの趣向も楽しい。

中盤では当日のアニヴァーサリーな空気をさらに盛り上げる2人のゲストが登場。藤原ヒロシは、ボブ・マーリーのカヴァー“Waiting In Vain”ほか、参加した3曲全てで意外にもヴォーカルを披露。続いて現れた小西康陽は、終始寡黙なベーシスト役。“Never Can Say Goodbye”1曲のみのベースラインを預かるという贅沢な出演だった。


  シャンソンの原曲をメロディカによるダブへ変換した“愛の賛歌”で本編は終了。満場のアンコールに応えた猪野は、彼のレパートリーの中でも最も人気の高い“Love Theme From Spartacus”にピアノ一台で臨んだ。決して技巧派プレイヤーではない氏が、敢えて独奏で聴かせたこの曲こそ、この日のハイライトだったかもしれない。その演奏は「これからも妥協せずにやっていきます」という無骨なMCとも重なるように感じた。

  愚直なまでのミュージシャンシップとアーティスティックな野心。これまでは作品の前面に立ち現れることを避けていたように思える、そんな猪野秀史の〈顔〉が打ち出されたこの日のライヴ。6月4日にリリースされるニュー・アルバム『The FORCE OF eXOTiC』では、その個性をさらに強く提示してくるのか、それとも作品においては今後も匿名的な音世界が構築されるのか――いずれにしても、会場に詰め掛けたオーディエンスが、新作への期待をよりいっそう膨らませて帰途に着いたことは間違いないだろう。

SET LIST
1. Madsummer Reminiscence/2. Solid Foundation/3. Spartacus/4. Smilin Billy Suite/5. What are you doing the rest of your life?/6. Waiting in vain(guest-H.fujiwara)/7. My ever Changing mood(guest-H.fujiwara)/8. Do you really want to hurt me(guest-H.fujiwara)/9. Never can say goodbye(guest-Y.konishi)/10. Behind the rainbow/11. Billie Jean/12. Hymne a La'mour/13. Love theme from spartacus #piano/14. Just the two of us