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第89回 ─ アンクルのジェームス・ラヴェルが持ち合わせる批評性

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2007/06/14   12:00
更新
2007/06/14   17:45
テキスト
文/久保 憲司

『NME』『MELODY MARKER』『Rockin' on』『CROSSBEAT』など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、元〈モ・ワックス〉レーベル総帥として知られるジェームス・ラヴェルのユニット、アンクルの4年ぶりとなる新作『War Stories』について。

UNKLE『War Stories』

  実はぼく、10年以上前にデリック・メイやリッチー・ホウティンなどのDJたちを日本に呼んで、新宿リキッドルームでパーティーをやっていました。それが現在のクラブ・シーンの土台の一部になったということで、一応クラブ・シーンの人たちから少しだけは尊敬されているんです。でもそれも本当に大昔の話なんで、そろそろ何かしないといけないなと思っているんですが、でもぼくはどうも現在のクラブ・シーン、ダメなんですよね。

現在の最先端のダンス・ミュージックには、ロック的な要素もたくさん入って来ていて、ぼく的にはドンズバなはずなんですが、フロアーにいて8ビートのベースとかが入ってくると何かバカにされてような気がして、「もっとハネろよ」と叫んでしまうんです。

  昔、ジョイ・ディヴィジョンとかがダンス・ミュージックをやろうとしていて、やっぱダンスはかっこいいなと思っていたんですが、いま聴くと、16ビートなのはハイハットだけだったりすることに、ちょっと拍子抜けします。いまの若い子がフロアーで8ビートのビートがブンブン流れてくると興奮するというのは、こんな感じなんだろうなと思います。

  これは、ビートルズがチャック・ベリーのシャッフル・ビートを、8ビートに焼き直して演奏していたのと似ているのかもしれません。8ビートの方がスピーディーでワイルドだよな、と当時の若者たちは思っていたんでしょうね。時代はそうやって変わっていくんだな。

あと、もう一つ思うのは、ついにというか、やっとというか、イギリスの音楽からエクスタシー(ドラッグ)の影響が完全に抜けてきたのでは、ということです。これまでのイギリス産の音楽はどこかエクスタシー臭かったんですが、いま出てきている若いイギリスのバンドは、本当にクリーンな感じがするんですよね。しかし、エクスタシーの時代は長かった。87年くらいから始まって、約20年もの間、若者の文化に影響を与え続けたドラッグがこれまであったでしょうか? あの、文化を変えたと言われるアシッドの時代にしても、5年くらいでしょう。これから世の中がどういう風に変わっていくのか楽しみです。

さて、ジェームス・ラヴェルによるアンクルの3作目なんですが、凄いです。ちゃんとハネてます。全然クリーンな感じがしません。でも全く時代遅れじゃないんです。このロックの取り入れ方など、色んな意味で最先端。ビジュアル周りも相変わらずオシャレだし、本当にかっこいいです。しびれます。神様に「誰になりたい?」と聞かれたら、間違いなくジェームス・ラヴェルと答えます。

昔、ジェームスがレコード・ショップの〈オネスト・ジョンズ〉で働いていた頃が懐かしいです。日本人がその店に入って来る度に「〈メジャー・フォース〉のレコード持っている? 高く買うよ」と聞いていたのが懐かしいです。〈モ・ワックス〉の運営を経て、本当にこんなに素晴らしいアーティストになるとは。ロンドンという場所が彼を育てたのか、彼が特別なのか、今のジェームスを見てると、ぼくももう一度ロンドンの空気に触れながら勉強し直したいなと本当に思います。

  DJシャドウなどは彼がいなかったら、アメリカの田舎で本当にくすぶっていたかもしれません。彼が批評したから、DJシャドウはシーンの中に自分のマーケットを見つけられたんだと思います。

ぼくは発掘とも、育てたとも言いません。ジェームスは批評性があるんだと思います。本当だったら批評家がやるべき仕事を彼はやったんだろうと。最高級の批評家なんだと思います。

  元カルトのイアン・アストベリーが歌う“Burn My Shadow”は、新しいドアーズみたいでマジですごいです。クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジのジョシュ・オムを起用してるのもいいセンスしている。気になるのは、デューク・スピリットが参加していること。日本では全然売れないし、あかんのかなと思っていたけど、ジェームスが目をつけているということは、これから注目しないといけないのかも。

とにかくかっこいいんで、みなさん聴いてみてください。〈SUMMER SONIC 07〉でのライブも楽しみ。