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第91回 ─ あらゆる束縛をぶった斬るハッピー・マンデーズのグルーヴ

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2007/07/12   18:00
テキスト
文/久保 憲司

『NME』『MELODY MARKER』『Rockin' on』『CROSSBEAT』など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、フジロック出演も決まったマンチェスターの雄、ハッピー・マンデーズによる、なんと15年ぶりの新作『Uncle Dysfunktional』について。

HAPPY MONDAYS『Uncle Dysfunktional』


ハッピー・マンデーズ『Live』のジャケット。新作と似てる?

  前回のポップ・グループもそうでしたが、今回のハッピー・マンデーズも、ひょっとしたら海賊盤状態かもしれない、という気がしています。権利関係とか完全にはクリアされてなさそうなんだよな。あとこれまでの彼らのジャケットを手がけてきた、マンチェスターを代表するデザイン・チーム、セントラル・ステーションに「お前ら高い金とりやがって、このクソ野郎ども」と思っていたみたいで、セントラル・ステーションっぽいデザインを一万円くらいでやっています。過去のデザインとは月とスッポンくらいの差がありますが、笑えます。でも心配なく。音の方は完璧なるハッピー・マンデーズ。ブラック・グレープもちゃんと通過した、アーバン(?)な最新型マンデーズです。
 
  だけど、このムチャクチャさがいいですよね。これがハッピー・マンデーズのグルーヴの秘密のような気がします。中心人物であるショーン・ライダーは、裁判でも何でも、来るなら来いという感じでいるんでしょう。この考えは、はっきり言って正しい。誰がいまハッピー・マンデーズの権利を持っているのかは知らないけど、誰もアーティストを束縛することなんて出来ないんです。アーティストは、自分が正しいと信じることならば、好きなことをすればいい。自分にちゃんとした信念があるなら、裁判だって絶対に勝つと思うんです。

  有名なところでは、ジョージ・マイケルの契約問題です。ジョージ・マイケルは家業を継げという父親を、半年でデビュー出来なければ音楽の道をあきらめるから、と説得して音楽活動を頑張り、本当に半年後にレコード契約を勝ち取ります。ジョージは本当に凄い奴なんです。そしていい話でしょう。でもこれが、とんでもなく不利な条件の契約だったんです。

どういう理由があろうとも、サインしたジョージ・マイケルが完全に悪いのでしょう。しかし、後に彼は自分の歌手生命を賭けて、この契約は不当だと裁判を起こし、勝利するんです。

  クラッシュの場合は、デビューの時にレコード10枚の契約をしてしまいます。でも「俺たちがバカだった。でもこれが次なる世代のお手本になれば」と頑張ります。彼らが2枚組、3枚組と、どんどん出していたのは、早くこの10枚契約を終わらせたかったんですね。10枚もずっと同じ印税率というのは辛いはず。アーティストにとっては、アルバム毎に印税率などを見直してもらうのが一番良いのでしょうね。

  ショーン・ライダーが2003年に出した『Amateur Night in the Big Top』は、従兄弟と二人で作ったアルバムだったけど、これもオーストラリアで作ったり、名義を変えたりして、色々な法の網をかいくぐりながらリリースしているんです。

そしてマンデーズの新作。ショーン・ライダーは単にお金が欲しいだけなのかもしれないけど、彼の凄いところは、それでも悪くないクオリティのものを作ってくるんですよね。ジャンキーなのに、凄いなと思う。

  センスもいいんだよね。5曲目の“Cuntry Disco”では、ライ・クーダーなスライド・ギターが入ってくる。しかも『Paris, Texas』の頃じゃなくて、初期の彼の感じ。ぼくも沖縄な頃のライのような音楽がこれから復活すると思っていたから凄いなと思う。本当にライ・クーダーのサンプリングだったりして。

  この“Cuntry Disco”なんかを聴いて面白いのは、UKで好き勝手やっているもうひとりの男、ピート・ドハーティーと歌い方とかが似ているところ。この、現代のイギリスを代表する詩人二人は本当に凄い。このアルバムが今後どう評価されていくのか、ぼくは分からないけど、200年後に残っているのはショーン・ライダーやピート・ドハーティーの言葉なんだと思う。

  ぼくの大好きなショーン・ライダーの歌は“Wrote For Luck”。「俺は本が読めない、俺は推測するだけ。お前は昔は天才だったかもしれないけど、今はただ賢いだけ」。この感じで生きていこうといつも思っています。