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第98回 ─ モノ・ヴァージョンで聴きたいピンク・フロイドのデビュー作

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2007/10/18   14:00
更新
2007/10/18   17:41
テキスト
文/久保 憲司

「NME」「MELODY MARKER」「Rockin' on」「CROSSBEAT」など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、80年代のシド・バレットこと(?)ジュリアン・コープの著作「Japrocksampler」と、本家シド・バレット率いるピンク・フロイドのファースト・アルバム『Piper At The Gates Of Dawn』の発売40周年記念盤について。

  だいぶ時間が経っていますが、ジュリアン・コープが「Japrocksampler」というとんでもない本をリリースしました。日本語訳がないのが残念です。「スター・ウォーズ」に出てきそうなタイトルですが、Jap・Rock・Samplerをくっつけただけです。ジュリアンが在籍していたティアドロップ・エクスプローズの名盤『Kilimanjaro』を意識したとしか思えないベイビーシャンブルズの名曲“Killamangiro”に対抗したのですかね。これも、Kill・A・Man・Giroをくっつけただけですが、ウィリアム・バロウズのカット・アップ・テクニックの応用みたいなものですかね。ピーター、天才ですよね。

「Japrocksampler」はサブ・タイトルに〈戦後、日本人がどのようにして独自の音楽を模索してきたか〉と書いてある通り、英語で書かれた、たぶん世界で初めて日本のロック史を解説した本なのです。

英語がよく分からないので間違っているかも知れませんが、イントロダクションでジュリアン・コープはこんなことを書いています。ジュリアンは70年代にパンクとかサイケデリックという音楽を通して自分を表現していったが、それと60~70年代に起こった日本でのロック革命が凄く共鳴している、と。

  「Japrocksampler」で紹介されるアーティストは、フラワー・トラベリン・バンド、灰野敬二、裸のラリーズ、ジャックスと、むっちゃ偏っている。はっぴいえんどとガロを一緒に論じていたりするところもあるんだけど、何だかぼくには分かる。ジュリアンに言わせると、はっぴいえんどもガロも、ジェイムス・テイラー・タイプの日和ったバンドだ、ということなのです。はっぴいえんどの前身、エイプリル・フールはへヴィーだと褒めている。

村八分に対しても厳しい。〈村八分は結局のところ、ロックンロール・ライフをエンジョイしたいだけのバンドだった。なぜならセット・リストが何年間もずっと一緒だった〉。鋭いと思う。

とにかく、凄い本だと思う。よくもここまで調べたなと思う。ぼくもがんばらな、と思う。ぼくも日本のカントリーの象徴であるジミー時田さん(寺内タケシさん、いかりや長介さんもジミーさんのバンド出身)くらいまでさかのぼって、日本のロックがどう発展してきたかを調べたいと思っていたんだけど。完全に先を越されてますな。

  でもやっぱりぼくが一番興味があるのは67年のイギリスかな。ジュリアン・コープはシド・バレットに強く傾倒していたけど、そんなシドが中心となって作り上げたピンク・フロイドの『Piper At The Gates Of Dawn』が40周年記念として豪華エディションでリリースされたのは、海外でもあの時代に注目が集まっているということだと思う。メンバーは何とも思っていないのだろうけど。

今回の記念盤にはアルバム全曲のモノラル・ヴァージョンも収録されている。ぼくは生まれて初めてモノラル・ヴァージョンっていいなと思ったので、みなさんもよかったら買って聴いてみてください。音がぶっといですよ。ビートルズも本当に目指した音はモノラルの方だというけど、ビートルズの場合はステレオ・ヴァージョンに慣れすぎているので、モノは違和感があって気持ち悪いんですよね。

雑誌〈MOJO〉のインタビューを読むと、当時のシド・バレットは「憤り嘆くポップ・マシーンのジョン・レノンに凄く影響されていた」と語っていて、なるほどという感じがする。ぼくはここからサイケデリックが始まり、そしてこのアルバムこそサイケデリックの最高峰だと思うのだ。

  “Astronomy Domine”“Lucifer Sam”“Interstellar Overdrive”を聴いて欲しい。最高にファンキーでグルーヴィーで、こんなにぶっ飛べる音楽が67年にあったのだということに感動する。そして〈ぼくのバイクかっこいいだろう、君にも貸しあげたいけど、借りもんだから貸してあげられないんだ〉と牧歌的に歌う“Bike”。LSDをきめて、一晩中ぶっ飛んで、気付いたらどこかの公園にいて、空を見たらあまりにも綺麗で、透明なあの感じが、まさに味わえる。

今は67年じゃないので、そんなことをやったら警察に捕まるけど、このアルバムを聴けば、絶対あなたもわかるはずだと思う。ドラッグなんかやらなくても、たまに空を見た時、夕日を見た時、きれいだなと思う、あの感じがここにはあるのだ。