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第83回 ─ セカイイチ スペシャル・リリースパーティー〈世界で一番嫌いなことって?〉 @月見ル君想フ 2007年11月13日(水)

連載
ライヴ&イベントレポ 
公開
2007/11/22   18:00
更新
2007/12/03   14:02
テキスト
文/土田 真弓

 神田朋樹、ASA-CHANG、小谷美紗子、深沢秀行(岡村靖幸BAND)、柏倉隆史&美濃隆章(toe)、小西麻美(MINGUSS)、藤原真人、リューチ(nenem)という多彩なアーティストをゲストに迎え、新機軸を打ち立てたニュー・アルバム『世界で一番嫌いなこと』を完成させたセカイイチ。バンドとして大きな進化を遂げた本作の発表に先駆けて、11月13日に招待制のスペシャル・リリースパーティーが開催されました。bounce.comでは、当日の模様を速報レポートいたします!!


  真っ黒な壁面に浮かぶ、月を模した大きな円形のシルエット。ステージ上に佇んでいるのは、ヴォーカルの岩崎慧ただひとり。セカイイチのニュー・アルバム『世界で一番嫌いなこと』の発売直前に行われたスペシャル・リリースパーティーは、バンドの新章を告げるにふさわしい静謐なフォークトロニカ・ナンバー“シュナイダー”で幕を開けた。一音一音、丁寧に爪弾かれるアコースティック・ギター。ひそやかに響くその音色に、打ち込みのブレイクビーツがやわらかく寄り添ってゆく。ゆったりと刻まれるビートに誘われたかのように、中内正之、泉健太郎、吉澤響の3人もいつの間にか合流。なだらかにバンド・セットへ移行したところで、岩崎がフロアに向かって叫ぶ。「世界で一番嫌いなパーティーへようこそ!」。


  そんな挨拶もそこそこに、続くは“モナカ”。四つ打ちのあいだにさり気なくブレイクビーツが挿入されるドラミングと、トリッキーなベース・ラインが印象的なこの曲は、無意識に体を揺らしてしまう不思議なグルーヴを孕んだダンス・チューン。未発表曲であるにも関わらず、会場からはハンドクラップが沸き起こる。

 「いろんなハプニングがありまして、面目ない(笑)。今日は〈世界で一番嫌いなパーティー〉だから、そりゃ、こういうことも起こるわな」――。冒頭でギターの音が出ない!? ……と思ったらコードが抜けていた、などのアクシデントを笑いに変えつつ、セットは先行シングルのカップリング“悲しい言葉”を挟んで、新作のオープニング・ナンバー“勇気の花”へ。アコギを中心としたバンド・サウンドに溶け込んでゆく、清澄な電子音。その音の隙間に浮遊している微妙な音の揺らぎが、ひどく耳に心地良い。続く“空中ブランコ”では、MINGUSSの小西麻美がゲスト・コーラスとして登場。伸びやかな歌声で華を添える。


  小西がステージ上から去ると、ライヴは“118”でひとつのクライマックスを迎える。アルバムでは吉澤とtoeの柏倉隆史とのツイン・ドラムで臨んだインストゥルメンタルだが、今回のライヴ・ヴァージョンでは、吉澤の生ドラムに対して岩崎がドラム・パッドで拮抗。サンプリングされた多種多様な〈音〉がことごとくリズムと化し、エネルギッシュな空間を築き上げてゆく。途中、ベース・ソロのあいだに吉澤と岩崎が入れ代わるという離れ業も披露し、プレイはどこまでもファンキー&アグレッシヴに加速。いよいよ絶頂へ達したかと思った瞬間、“Me And My Love”で一気にサイケ・モードへスイッチし、どこかハンドメイドな風合いのブレイクビーツ“アンテナ”、彼ら随一のエモーショナル・アシッド・フォーク“RAIN/THAT/SOMETHING”と、休む間もなく駆け抜ける。


 「〈なんてタイトルなんだ〉って思うかもしれないけど、特に意味はないよ」というMCと共に滑り出したのは、ソウルフルに疾走するギター・チューン “さいぎしん”。〈Do you feel good?〉というフレーズをフロアから選出した男子1名に歌わせつつ、岩崎の先導で会場全体は大ハモリ大会に。全10曲、本編はあっという間に幕を下ろした。

  アンコールは、2本のアコギで極上のメロウネスを届けてくれる“微熱少年”。ドリーミーな気分でこの日のパーティーは終了……するかと思いきや、観客は一向に帰る気配を見せず、「タダのくせにオマエら~、ほんま、エエ加減にせえよ~。……でも、嬉しいから(もう1曲)演ります!」――と、メンバー再登場。岩崎によるMCのあいだに他のメンバーが協議した結果、選曲されたのはファンのあいだでも人気の高い“聞いてますか お月様?”。イントロが鳴った瞬間にフロアからは歓声が沸き上がり、この上なくハートフルな空気に包み込まれたまま、2度目のアンコールも終了した。


  アナログ/デジタルな手法を絶妙なバランスで配したニュー・アルバム『世界で一番嫌いなこと』において、持ち前のソウルフルかつフォーキーな感触はそのままに、エレクトロニカやダンス・ミュージック的なグルーヴをも呑み込むバンド・サウンドを獲得したセカイイチ。しかし、従来の作風とは明らかな〈変化〉を見てとれるであろうこれらの楽曲群を、この日集まったオーディエンスは誰もが違和感なく受け止めていたように思う。方法論をどれだけ変えようとも、セカイイチのサウンドの核にある〈普遍的なポップネス〉は変わらない――。おそらく今夜のパーティーは、その動かぬ証左となるだろう。