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第105回 ─ JBとディスコにパンクのアティテュードを融合させたイアン・デューリー

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2008/01/31   14:00
更新
2008/01/31   17:56
テキスト
文/久保 憲司

「NME」「MELODY MARKER」「Rockin' on」「CROSSBEAT」など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、パブ・ロック・シーンから登場したヒーロー、イアン・デューリーについて。

  うーん、やっぱイアン・デューリーかっこいい。パンク以前にディスコ・ボーイだったぼくは、ファースト・アルバム『New Boots And Panties』の1曲目“Wake Up and Make Love With Me”でのノーマン・ワットロイのベースとチャーリー・チャールズのドラムのタイトさに、体の温度が一瞬にして上がります。

ジェイムズ・ブラウンとディスコ、そして当時のパンクな気持ちとで作られる最高のサウンドには本当に体が痺れます。いまクラブでこの曲が3回続けてかかっても、ぼくは踊り続けるでしょう。でも、もうかかんないだろうな。パラダイス・ガラージの時代にタイム・スリップしたい。

  そして、チャス・ジャンケルのプロダクションが涙が出るくらいかっこいい。クインシー・ジョーンズがカヴァーした“愛のコリーダ”を作った人です。彼のアルバムも凄いんで、よかったら聴いてみてください。ディスコってアメリカで育ったカルチャーかもしれませんが、ロックをビートルズが前進させたように、ディスコを何歩も前進させたのも、やっぱりイギリスのアーティストなんですよ。こんなことやるのかという感じです。チャス・ジャンケルのほかにも、ニュー・オーダーの完全なる元ネタとして知られるフリーズの“I.O.U.”とか、当時のディスコ・シーンの中でも本当に斬新で、凄いものが出ているんです。

  『New Boots And Panties』もそうです。イアン・デューリーとチャス・ジャンケルの融合は奇跡です。いま聴いても体が震えます。でも残念なのは2人の関係が次のアルバムで崩壊するんですよね。たった2枚で。イアン・デューリーは我が強い人で大変だったみたいです。だから、次の『Laughter』でパートナーに迎えたウィルコ・ジョンソンとも、あまり上手くいかなかったみたいです。当時は『Laughter』のことはよく理解していなかったのですが、いま聴くといいR&Bアルバムですね。もっとウィルコのギターが全面に出ていたらと思うんですが、確執があったんでしょうね。イアンの歌とウィルコのギターが、ギスギスした感じになってもいいので対決しているような感じで作られたら、もっと面白いアルバムになったかもという気がします。

  今回リリースされたイアン・デューリー再発盤4枚のライナーは、ぼくの尊敬する評論家、ウィル・バーチ(彼が書いたパブ・ロックの本「パブ・ロック革命」は、すべてのロック・ファンに読んでもらいたい名作です)が書いていて、当時のブロックヘッズとイアン・デューリーの状況が手に取るように分かって面白いです。これを読むだけに買う価値があるくらいのライナーです。

ぼくは一度だけ、イアン・デューリーに会ったことがあります。ライナーでも書かれている通り、年をとって丸くなったイアンだったんですけど、こんなアーティストになりたいなと思うような暖かい人でした。居間にドラム・セットがあって、「ドラムを叩きながらメロディを考えるんだ」と実演してくれました。イアンの独特なメロディはこうして出来るんだと感動しました。

  ライナーでも書かれてますが『The Bus Driver's Prayer And Other Stories』で後のメンバーから猛反対にあったのに、すべての曲でドラム・マシーンを使うと言ってきかなかったのは、自分の言うことを完全に聞く機械が欲しかったんでしょうね。全然丸くなってないですね(笑)。

名曲“Sex & Drugs & Rock & Roll”は、イアンが口ずさんだメロディから作られたんだけど、後にそのフレーズがオーネット・コールマンの“Change Of The Century”でのチャーリー・ヘイデンのベース・ソロだと気づいたということを、ライナーの中でチャス・ジャンケルが語っていて、オーッて感じです。どんだけ引き出しが多いんでしょうね。

  セックス・ピストルズの映画「No Future」で、ジョン・ライドンの独特な動きと喋りは映画「リチャード3世」のローレンス・オリビエの演技を真似たものと語られていますが、イアンのライヴでの動きや、凄いコックニー訛りのMC、ロカビリーを下地に色々なガラクタをくっつけたファッションなどは、後のジョン・ライドンそのものですよね。パンクの源流には、イアン・デューリーの思想が凄く入っていると思います。 キルバーン&ザ・ハイ・ローズ時代のイアン・デューリーなんかを、後のパンクスたちは子供の頃に見てたんじゃないでしょうか。パンクの我の強さって、イアンのコックニーらしい我の強さを受け継いでいるんでしょうね。そんな気がします。