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第92回 ─ 9mm Parabellum Bullet × 凛として時雨 @赤坂BLITZ 2008年7月1日(火)

連載
ライヴ&イベントレポ 
公開
2008/07/10   18:00
更新
2008/07/10   18:03
テキスト
文/土田 真弓

 9mm Parabellum Bullet が凛として時雨を迎え撃つかたちで行われた、東名阪を巡るガチンコツアー〈ニッポニア・ニッポン〉。新世代バンドの両雄とも言える勢いの2組が火花を散らした当日の模様を、bounce.comでは詳細にレポートいたします!!

  いわゆる〈突然変異型〉と言われる新世代バンドのなかでも、人気・実力共にトップ・クラスに位置する2組が激突した東名阪ツアーの最終日。先にステージ上へ姿を現したのは、凛として時雨だ。会場全体を震わせる怒号をものともせず、幻想的な声音で歌い始めた345のヴォーカルを、TKの絶叫がヒステリックに切り裂いてゆく。〈狂気と正気〉〈現実と非現実〉の対比が顕著な“赤い誘惑”からこの日のセットはスタートし、間髪入れずに彼ら屈指のアッパーなダンス・ロック・チューン“DISCO FLIGHT”へ移行。肌で感じる圧力をもって観客の肉体を刺激する345のベース、激烈アルペジオからメタリックな速弾きまで、驚異的なスピードで千変万化を遂げるTKのギター。フロアの興奮ぶりは、もはや頂点に到達しようとしている。

  要塞のようなドラム・セットの背後から超絶ソロを繰り出すのは、プログレッシヴな曲展開が特徴である時雨サウンドの守護神・ピエール中野。ただでさえ高度なテクニックを要するマシンガン・ドラムのなかに、スティック回しなどの視覚的な〈見せ場〉もしっかりと盛り込んでくる姿勢こそが、彼の凄みであり、強みであろう。超速で連打される破壊的なリズムに観客が魅入られたところで雪崩れ込んだのは、もちろん“NAKANO KILL YOU”。その後も“感覚UFO”“TELECASTIC FAKE SHOW”を連発し、3人は圧倒的な気魄で観客の意識を攫ってゆく。

 「9mmの野獣ヴォーカル、卓郎さんからのリクエストにより1曲演りたいと思います」。

 TKのこの上なくシンプルなMCに導かれたのは“Re:automation”。間奏に9mmの“Discommunication”のリフを挿入するという趣向も凝らし、双方のファン・サービスにも抜かりない。


写真/太田好治

  「バリバリのキラー・チューンを演りたいと思います」。

 と、TKより淡々と発せられた挑戦的な言葉どおり、終盤は“想像のセキュリティー”“テレキャスターの真実”“CRAZY 感情 STYLE”とファンには馴染み深い初期のカオティック・ナンバーを畳み掛け、ラストで辿り着いたのは“傍観”。ディレイが施されたギターが、荒涼とした音像をどこまでも広く、深く押し広げる。重く沈み込むような冒頭から〈僕は知らない/僕は見えない/僕は汚い/僕は消えたい〉という悲痛な叫びを繰り返すラストへ。徐々に熱を帯び、加速してゆく展開と反比例するように、総毛立つような喪失感が会場全体を包み込む。激情を転写するようにギターを振り回し、投げ捨てるTK。長い髪を振り乱し、ベースを高く掲げ、力尽きたように膝を折る345。そして2人の退場を見送ったのち、ピエールのスティックが宙に舞って、彼らのステージは終了した。

 続いて登場したのは、今回のツアーのホスト、9mm Parabellum Bullet。初っ端からステージ上をところ狭しと暴れまわるフロント3人の傍若無人っぷりに、堪え切れず爆笑。メタル~ハードロック・マナーのプレイにギター・滝 善充のエア・ドロップキックやらベース・中村和彦のハードコア・ダンスやらが加わり、否が応でもステージへ目が釘付けになる(というか、ステージ上であまりにも多くの事象が同時に起こり過ぎて、彼らの動きを目で追うのに必死の状態)。さらには“Mr.Suicide”でヴォーカル・菅原卓郎も交えた3人のやたら息の合ったヘッド・バンギングも飛び出したとあっては、筆者の理性の壁は完全に崩壊。もちろん観客のテンションも急騰し、多くのダイヴァ-によってフロアはすでに大きく波打っている。

  「ニッポニア?」「ニッポン!!」というコール&レスポンスを繰り返した後、「これが(このツアーのなかで)一番楽しいかもしれないね(笑)」と卓郎。「派手に行こう!」という言葉を契機に、セットは“Wildpitch”“Heart-Shaped Gear”“Discommunication”と怒涛の3連続へ。滝と卓郎による恐ろしく高い強度を誇る鋼鉄リフ、地底から轟くような中村のベースライン&シャウト、寿命が縮まるんじゃないか?と要らぬ心配をしてしまうほどに〈全力振り絞り感〉が漲っているかみじょうちひろのドラミング。相変わらずハチャメチャなパフォーマンスを展開しながらも、目まぐるしい転調を正確に辿り、キメどころをことごとくキメまくる彼らのプレイは、観る者にある種の清々しさすらをも運んでくる。

 「秋にはアルバムを出します」という宣言の後に、新曲を2曲披露。ギターとベースによるメランコリックなフレーズのリフレインが印象に残る楽曲と、メタリックなリフが炸裂する9mmらしさ全開の楽曲。どちらも次のアルバムに期待が高まる出来だ。

 「日本人って、強敵が現れると〈オラ、ワクワクすんぞ!〉って言うでしょ?」と、卓郎が最後に放ったMCは、なぜか「ドラゴンボール」ネタ(恐らく……)。今回のツアーになぞらえて、名古屋・大阪とツアーをまわっていたあいだにピエール中野と語り合っていたらしい。常識や理屈を超越するという意味ではまさにスーパーサイヤ人級(?)のステージングで“Supernova”“marvelous”“sector”“Beautiful Target”を連発すると、本編は終了した。

  「凛として時雨のマッド・プロフェッサー、TKのリクエストに応えたいと思います」。

 そんな言葉と共にアンコール冒頭で披露されたのは、楽曲の底辺に脈打つ醒めた感情が時雨の世界観にも通ずる“Butterfly Effect”。そして“Talking Machine”へ突入すると、ステージはいよいよ絶頂へ。ラストの“Punishment”では滝と中村が楽器を放り出して取っ組み合いを始め、しまいには滝がドラムを、中村がギターを、卓郎がシャウトを(いっそ、中村のパートに〈シャウト〉を加えて欲しい)担当(占拠)するという暴挙に出る。何なんだ、これは? 最高だ。ストイックに徹した時雨に対し、9mmは最後まで破天荒の限りを尽くして、今回のツアーは大団円(?)を迎えた。

 〈独特の日本語詞〉〈予定調和を嫌う曲展開〉〈確かなテクニックに基づく爆発的なグルーヴ〉など、この2組が放つサウンドを表現する言葉には多くの共通項が見られるが、今回のツアーではある意味〈両極〉とも言える個性をぶつけてきた 9mm Parabellum Bullet と凛として時雨。規格外のバンドを指す〈突然変異型〉という呼称すら形骸化しているように思える昨今、彼らはその枠組からも飛び出し、さらに先へ、未開の地へと歩みを進めている。これからの日本のロック・シーンをおもしろくしてくれるのは、間違いなく彼らのような音楽家たちであろう――そんなことを強く思った、この日のステージだった。

9mm Parabellum Bullet & 凛として時雨 ガチンコツアー〈ニッポニア・ニッポン〉セットリスト

凛として時雨

1. 赤い誘惑
2. DISCO FLIGHT
3. NAKANO KILL YOU
4. 感覚UFO
5. TELECASTIC FAKE SHOW
6. Re:automation
7. NEW SONGS
8. ラストダンスレボリューション
9. 想像のセキュリティー
10. テレキャスターの真実
11. CRAZY 感情 STYLE
12. 傍観

9mm Parabellum Bullet

1. Wanderland
2. Mr.Suicide
3. Sleepwalk
4. Wildpitch
5. Heart-Shaped Gear
6. Discommunication
7. 新曲
8. 新曲
9. The World
10. Supernova
11. marvelous
12. sector
13. Beautiful Target
―アンコール―
14. Butterfly Effect
15. Talking Machine
16. Punishment

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