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第120回 ─ スミス~モリッシーにも通じる感覚を備えたシンガー、ダフィ

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2008/08/28   13:00
更新
2008/08/28   18:22
テキスト
文/久保 憲司

「NME」「MELODY MARKER」「Rockin' on」「CROSSBEAT」など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、英国・北ウェールズ出身のソウルフルな女性シンガー、ダフィについて。

  今年のフェスで一番期待していたMGMT、さぞや、スーサイドとフレーミング・リップスを混ぜたようなサイケでパンクなライヴをしてくれるのかと思いきや、ヴォーカルの男の子がショーン・キャシディ(古くてすいません)のような超カワイイ感じでびっくり。しかも、歌がスパークスのようなハイ・トーンな感じで、もっとびっくり。とってもセブンティーズでした。

  レイト・オブ・ザ・ピアーのヴォーカルのむちゃくちゃ感もスパークスに似ているし、こりゃ、スパークスが1日1枚づつ全アルバムを再現するライヴをやったのが分かる感じです。スパークス、来てます。って〈フジロック〉にも来てたんですが、どうだったんでしょう。ぼくが世界で一番好きなアルバムは、スパークスとジョルジオ・モロダーの奇跡のコラボ作『No.1 In Heaven』なんで嬉しい限りです。いまの若い子がやっているのは『Kimono My House』的な感じですけど。これはジャケットが世界一かっこいいアルバムかもしれません。

  スパークスはパンク前夜な感じがかっこいいですよね。ちょっと前のポスト・ニューウェイヴの子たちがXTCをやっていたので、それより若い子たちがXTCのルーツのような、スパークスやビー・バップ・デラックス、コックニー・レベル、アレックス・ハーヴェイをディグろうとするのはよく分かる。コックニー・レベルやアレックス・ハーヴェイはまだ誰もディグってないか、でもそろそろこの辺を掘る子たちも出てきそうだよな。

そういうことはおいといて、いまはイギリスの女性シンガーですよ。リリー・アレンから始まって、エイミー・ワインハウス、アデル、そして、このダフィ、凄いですね。アデルやダフィはエイミー・ワインハウスが売れたから出てきたんだろうと最初は思っていたんですが、この人たち、みんな本物ですね。 イギリスの音楽シーンの層の厚さにびっくりさせられます。

  ダフィの『Rockferry』を聴くまで、ぼくはエイミー・ワインハウスが一番と思っていたんですけど、ダフィが抜いてしまいました。日本盤が出たら歌詞をチェックしようと思っているんですが、何を歌っているのか全然分かんないのにグサグサ突き刺さります。「SNOOZER」誌が、ダフィを表紙にしてラヴ・ソング特集をやるのがむっちゃよく分かります。そして、それだけじゃなくて、ボーッと聴いているとむっちゃ癒されているんです。聴いているといつのまにか、涙が流れていく感じ。何を歌っているのか分からないのに。でもこれが歌なんじゃないでしょうか。

  また、ダフィが面白いなと思うのは、マネージャーがなんとPILのジャネット・リーなんですよね。あの『Flowers Of Romance』のジャケに狂気の顔で写っている黒髪の美しい女性です。ジャネット・リーが入ってから、PILはほとんどリズムだけの民族音楽のような感じになったので、 ロックを解体させたのは、PILをこうさせたのはこいつだと思われていた才女です。実際はジョン・ライドンとキース・レヴィンがドラッグでおかしくなって、ああいう音になっただけだと思いますが。でもあの頃、『Flowers Of Romance』はロックの最先端だったのです。彼女が〈ラフ・トレード〉の共同経営者になったというのは聞いていたのですが、そんな人が4年もかけてダフィを育てあげていたという話を聞くと、ニューウェイヴで育ち、PILの方法論が命だったぼくには何ともいえないものが伝わってきます。

  そして、このアルバムを聴いていると、どことなくスミス~モリッシーが歌っていたものと似ているようなものを感じて、そういうところも好きです。この辺の感じは、ジョニー・マーを好きだったであろう、プロデューサーのバーナード・バトラーの趣味も影響しているかもしれないけど、でもダフィがもともと持っているものなのかもしれない。それはモリッシーとジョニー・マーが愛した女性シンガー、ダスティ・スプリングフィールドやサンディ・ショウなどのイギリス女性がずっと持っているものかもしれない。

その感覚はダフィの生まれ育ったウェールズの小さな町ネヴィンの、寂れたコーナー・ショップ(雑貨屋)に買い物に行く途中に吹く風のなかにあるような気がする。何もない町で、うっすらとした光のなかを風が吹いているような感じ、夏でもちょっとしたコートがいるあの感じ。ぼくは一生この風を浴びるのは嫌だなと思い、たった4年でイギリスを引き払って、日本に帰ってきたんだけど、ダフィの音を聴いているとまた、あの風にあたりたいなと思う。世界中の人もそう思っているんだろう、ダフィのアルバムとシングルは、世界14か国で1位になっているのだ。