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第95回 ─ SLY & THE FAMILY STONE @ 東京国際フォーラム ホールA 2008年8月31日(日)

連載
ライヴ&イベントレポ 
公開
2008/09/04   18:00
更新
2008/09/06   00:28
テキスト
文/北野 創

 1960~70年代に活躍した米サンフランシスコ発の伝説的ファンク・バンド、スライ&ザ・ファミリー・ストーン。先日、まさかの初来日公演を行った彼らによる、〈東京JAZZ 2008〉でのライヴの模様をbounce.comでは詳細にレポート。果たして、スライの革新的なファンクネスは、現代の東京でどのように鳴り響いたのか? リヴィング・レジェンドによる奇跡的なパフォーマンスの一部始終をどうぞ!

  2006年2月、第48回グラミー賞の授賞式にてスライ・ストーンがサプライズ・ゲストとして登場、公の場では約20年ぶりとなるパフォーマンスを披露した。一時は消息不明とも噂されていた彼が、なんと金髪モヒカン姿(!)で突然現れたのだから、これはもうサプライズというよりもハプニングだろう。さらに、2007年には、妹のローズ・ストーン率いるファミリー・ストーンのトリビュート・バンドに参加して、ヨーロッパでライヴ・ツアーを敢行。まさかの復活劇に音楽ファンの間では話題騒然となったが、悲しいかな、すべては海外での出来事。ここ日本では酒の席のネタ話として愉しむことぐらいしかできなかった。そう、今年6月に衝撃の来日ニュースが発表されるまでは……。そして、〈東京JAZZ 2008〉の最終日となる8月31日、スライ&ザ・ファミリー・ストーンは本当にやって来た。彼らは、夏も終わろうとしているここ日本のファンのために、最高の〈Hot Fun In The Summertime〉をプレゼントしてくれたのだ。

  開演前のセッティング作業中。サウンド・チェック中も曲のフレーズが弾かれるたびに、客席からは「オーッ!」という歓声が巻き起こる。パフォーマンス前からこんなにも盛り上がるライヴも珍しい。開演予定時刻を少し過ぎたころ、バンド・メンバーがステージに登場した。編成はギター、ベース、ドラムス、サックス、トランペット、トロンボーン、キーボード2人、ヴォーカルの9人。うち、キーボードのローズ、サックスのジェリー・マルティーニ、トランペットのシンシア・ロビンソンがオリジナル・メンバーだ。この時点でスライの姿はまだ見られず、ステージ中央には彼専用と思われるキーボードがポツンと置かれていた。客席は早くも総立ち状態で、これぞまさに〈Stand!〉な気分!

  ライヴは、彼らの初ヒット曲“Dance To The Music”でくそファンキーにスタート! スタジオ音源よりも豪快に打ち鳴らされるファンク・サウンドが、会場内の空気をビリビリと震わす。本物のファミリー・ストーンだ! 彼らが目の前でプレイしているという事実だけで、熱い想いが胸中を駆け巡り、自然と目頭が熱くなる。「自分はいま、後に伝説として語られるであろう瞬間に立ち会っているんだ!」――そんな高揚感に包まれる。続いてノンストップで“Everyday Peoole”が繰り出されると、超名曲の連携コンボに客席の興奮ゲージは早くもフル状態。屈強なバンド・アンサンブルと、それを突き破るほどにパワフルなリサ・ストーンの歌声。ソウルフルで、エネルギッシュで、ポジティヴで……40年近くも前に作られた曲なのに、なぜこんなにも〈Fresh〉に聴こえるのだろう? 


Photo by 中嶌英雄

  続いて、ギターのトニー・イェーツがヴォコーダーで“Don't Call Me Nigger, Whitey”の一節を歌うと、ついに舞台袖からスライ・ストーンが登場! おばちゃんみたいな紫パーマのモヒカンにキラキラと光り輝く衣装、とても還暦を過ぎたとは思えないド派手な出で立ちに、もちろん一発でノックアウト! 大歓声に迎えられるなか、スライはヨロヨロと自分の席に着いて“Don't Call Me Nigger, Whitey”をラフに歌い始める。ヴォコーダー越しでも弱々しく聴こえる歌声に、キーボード上をフラフラと漂わせているだけの両手……あれ、大丈夫なのか? 一抹の不安を感じながらも固唾を呑んで見守っていると、聴き覚えのあるイントロとともに大名曲“Family Affair”に突入! 哀感漂う歌い口はレコードで繰り返し聴いたスライの声そのもので(当たり前か)、原曲よりもスロウ&メロウ度数高めなアレンジに、ジェリーのサックス・ソロが情熱的なアクセントを加える。こちらの杞憂を余裕で吹き飛ばす名演に、表情も自然と〈Smilin'〉に!


Photo by 中嶌英雄

  一転して、シンシアの掛け声で勢いよく始まった“Sing A Simple Song”では、スライからの呼びかけもあって、終盤で客席が一体となって「ヤー、ヤヤヤーヤー♪」と大合唱! 映画「ウッドストック」での、“I Want To Take You Higher”をみんなで歌うシーンが脳内にフラッシュバックして、この人たちはあの奇跡的なパフォーマンスを行ったバンドなんだよなあ、と改めて確信。その後も“Stand!”や“If You Want Me To Stay”といった名曲を連発して、息つく暇もなく盛り上げ続ける彼ら。この頃には、スライの喉もだいぶノッてきたようで、特に“If You Want Me To Stay”での熱のこもった歌いっぷりは、彼の独壇場ともいえる楽曲なだけに感激もひとしおだった。そして、続く“I Want To Take You Higher”では、スライも立ち上がって熱唱……したかと思うと、そのままヨロヨロと退場。彼がステージ上でパフォーマンスを行っていたのは実質30分ちょっと。まあ、こういう状況になるであろうことは想像していたけれども、やはりもう少しの間だけ元気な姿を見せ続けて欲しかった。「オレと〈一緒にいたいなら〉、もっと大声でハイヤー!と叫ぶんだな」――去って行く彼の背中はそう物語っていた……ような気がする。


Photo by 中嶌英雄

  とはいえ、ファミリー・ストーンの演奏はまだまだ終わらない。ここでベースのピーター・イェーツが、チョッパー奏法で例のフレーズを弾き出す。そう、彼らのナンバーでも屈指の重量級ファンク“Thank You(Falettinme Be Mice Elf Agin)”だ。一音一音が無駄なくグルーヴィーに絡み合うスリリングなサウンドで、観るものの足腰を破壊的なまでに刺激した後は、そのグルーヴの骨格を暴き出したようなスロウ・ファンク“Thank You For Talkin' To Me Africa”でダメ押し。ここで本編は終了したが、客席からは当然、割れんばかりの拍手喝采、歓声の雨あられが降り注ぎ、バンドはその期待に応えるようかのように、すぐさまアンコールに突入。再び“I Want To Take You Higher”が演奏され、今度は、メンバーそれぞれの紹介も兼ねたソロ・パートを織り込みながら、技巧的なプレイをじっくりと聴かせる。で、最後は「ハイヤー!」の応酬とともに大団円! 残念ながらアンコールでもスライが再登場することは無かったが、彼のファンク魂が錆び付いていないことは充分に実感できたし、この調子で新曲のリリースも期待したいところ。とにかく、最高のパフォーマンスを体験させてくれた彼らに贈る言葉といえば、もちろんこれしかないでしょう、〈Thank You〉!

SLY & THE FAMILY STONE 東京JAZZ FESTIVAL 2008 セットリスト

1. Dance To The Music
2. Everyday People
3. Don't Call Me Nigger, Whitey
4. Family Affair
5. Sing A Simple Song
6. Stand!
7. If You Want Me To Stay
8. Thank You(Falettinme Be Mice Elf Agin)
9. Thank You For Talkin' To Me Africa

―アンコール―
10. I Want To Take You Higher

▼スライ&ザ・ファミリー・ストーンの作品を紹介

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・Podcast向井 弾き語りトークaboutスライ&ザ・ファミリー・ストーン編(連載/2007年5月 bounce.com掲載)