こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

NEWS & COLUMN ニュース/記事

第14回 ─ この歌詞が素晴らしい!

連載
曽 我 部 恵 一、 POP職 人 へ の 道
公開
2008/10/16   12:00
更新
2008/10/16   18:30
テキスト
文/bounce.com編集部

ご存知〈キング・オブ・メロウロック〉こと曽我部恵一のマンスリー連載! ご自身のお店〈City Country City〉でも素敵な〈手描きPOP〉を作っている曽我部氏が、タワーレコードのPOPを担当。独自のテーマでCD/DVD/書籍をチョイスし、その作品のPOP作りに挑みます。完成したPOPとセレクション・アイテムは、タワーレコード新宿店の〈曽我部コーナー〉にて展開……というWEB&店舗の連動企画! さて今月のセレクション・テーマは〈この歌詞が素晴らしい!〉です。

今回のテーマは〈歌詞〉。言葉の面において素晴らしい作品を曽我部さんにチョイスしていただきました!

曽我部「僕の場合、曲うんぬんよりも、言葉が良ければOKなんですよ。特に若い子のデモ・テープを聴くときは歌詞が一番重要。演奏とかメロディーよりも、何を歌おうとしてるかというところにしか興味を掻き立てられない。こういうことを歌いたいから、このサウンドなんだっていう順番で考えてるのかな。自分の曲を作るときも、歌詞が先ですね。メロディーが先にあって、そこに歌詞を被せていくパターンだと、完成させていく方法論がわかんない。だから、メロディーだけのストックも結構あるんだけど、そういうものはほとんど完成しない。無理な作業になっちゃうんだよね」。

はっぴいえんど『風街ろまん』


はっぴいえんどの71年作『風街ろまん』

曽我部「このバンドは完全に歌詞先行でしょ? 松本(隆)さんの言葉にメロディーを付けていくという。松本さんの歌詞の魅力って、風景描写と、その風景に心象を絶妙に重ねていくところだと思うんですよね。“抱きしめたい”は、その後にザ・ブルーハーツとかが拡大していくような青春の熱い部分と、心象風景の文学的な表現と、それから未熟さとか素朴さがある。それらが三位一体となってるところが凄い。松本さんの歌詞って、文学青年がノートに書き付けたメモって感じがして、そこがすごくいいんすよね。喫茶店で窓の外を見ながら書いた言葉というか」。

ザ・ブルーハーツ『THE BLUE HEARTS』

曽我部「これは音楽を聴き始めた最初の頃に出会ったものですね。その前に尾崎(豊)があって、このふたつは自分のなかで同じラインではあるんだけど、でも尾崎はもっとフィクションだし、言葉数が多いでしょう。コバルト文庫的というか。ブルーハーツは、〈大人は信じられない〉とか〈もっと正直に生きたい〉みたいなことを含めて、かなりシンプルに歌ってる。詩的で谷川俊太郎さんっぽい感じがする。“人にやさしく”なんかはもう、究極の歌でしょう。〈気が狂いそう 優しい歌が好きで〉から始まるという。ロックの言葉の全部がそこにあって、なおかつ無理がない。曲として好きなわけではないんだけど、言葉のチョイスとしてこれ以上のものはないんじゃないかって気がするな」。

『上を向いて歩こう 永六輔作品集』

曽我部「ロマンティック。みんなが、こういう人生を生きたいなって思うような求心力とかポピュラリティーがある。それが歌謡曲たる所以だと思うのね。ものすごく普遍的だし、メッセージ性はないよね。とにかくシンプル。〈こんにちは赤ちゃん 私がママよ〉っていう言葉に、何も裏の意味はないじゃないですか。でもそれだけでガツンと表現たり得てるからすごい。なかにし礼さんとか阿久悠さんみたいな作詞家さんたちの詞は、メロディーが付くことを前提に書かれてるけど、永さんの場合は特にそういうことでもないのかなと。言葉だけで成立するものって気がするんだよね」。

PIZZICATO FIVE『PIZZICATO FIVE』

曽我部「これに入ってる“戦争は終わった”って曲が、小西(康陽)作品の頂点だと勝手に感じてるんですよ。パーティー帰りかなんかの女の子の、喪失感を伴った二日酔いの朝がまず描かれる。それが次のヴァースではいきなり〈戦争はどうしてなくならないのかな〉ってなるわけ。そのゴダールみたいなカット・インの鮮やかさ。これが歌詞のなかでできてるのって小西さんだけじゃないかな。しかも必ずポップなものにしてくれるでしょう。現代詩であり、暴力的なものでもあるんだけど、最終的にはキュート。そこで締めくくれるのは、小西さんの人柄なんだと思う」。

豊田道倫『SING A SONG』

曽我部「その小西さんと豊田くんとを、僕は対比して見ちゃう。小西さんが最終的には女の子の持ち物として(作品を)作り上げるのに対して、豊田くんは男子目線。鬱屈した男子の方に持って行く。なおかつ豊田くんも言葉のテクニックを持ってるよね。〈そんなところまで歌っちゃっていいの?〉って思わせることで引き込んでいく。例えば、物語のあらゆる過程をすっ飛ばして〈乳首を強く噛み過ぎた〉ってフレーズでいきなり始まったりする。それはもう聴かざるを得ないでしょ。そういうのは本当に上手い。“うどん、食べるか”って曲とか最高ですよ」。

BUDDHA BRAND『病めるブッダの無限の世界~BEST OF BEST(金字塔)~』

曽我部「これは、はっぴいえんどの『風街ろまん』に通じるかな。街の風景を切り取って、心象風景と重ねていくような。そういう描写が本当に上手い。あと、英語をたくさん入れてくるんだけど、それは宇多田ヒカルみたいなアメリカン・スクール的な英語には聴こえないでしょ。日本の音楽における英語の使い方って、要するに(山下)達郎さんがサビで〈RIDE ON TIME〉って歌うみたいなことじゃん(笑)。それで良いと思うし。でも、ブッダは英語と日本語を混ぜながら〈ブッダ語〉として聴かせちゃう。そんな人たちは他にいないし、凄いよね」。

記事ナビ