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第129回 ─ アコギ1本でロックしてみせた、ニール・ヤング初のソロ・ライヴ

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2009/01/08   14:00
更新
2009/01/08   15:48
テキスト
文/久保 憲司

 「NME」「MELODY MARKER」「Rockin' on」「CROSSBEAT」など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、1968年のニール・ヤング初となるソロ・アコースティック・ライヴの模様を収録したライヴ盤『Sugar Mountain : Live At Canterbury House 1968』について。

  出た!! ニール・ヤングのライヴ・アーカイヴ・シリーズ第3弾、アコギのソロ・ライヴ『Sugar Mountain : Live At Canterbury House 1968』。今回はアコギのみ、ピアノなし。この前出たアコギとピアノの弾き語りライヴ『Live At Massey Hall』の方が名曲も多いし、すごくいい会場でやっているんだけど、ニール先生が後に持病としてかかえる腰の痛みがあったみたいで、ドヨーンとしているんですよね。声は『Live At Massey Hall』の方が出ていると思うんですが。落としたピックを前にいるお客に取ってもらっていたりする。「腰を曲げるの楽しくないんだよね」って、あんたおじいちゃんか! ニールらしくっていいんですけど。

  今回のは、バッファロー・スプリングフィールドを抜けて一人になったのが嬉しかったみたいで、元気はつらつとライヴしています。とくに1曲目が“On The Way Home”(『Live At Massey Hall』となぜかキーが違います。『Live At Massey Hall』の方はたぶんバッファロー時代と同じキーAです。こっちの方はCで、低めなのかな。謎です。)で2曲目が“Mr. Soul”、3曲目“Expecting To Fly”と、冒頭でいきなりバッファローの曲をやっているんですが、それがアコギ一本なのに、むちゃロックしていてかっこいいんです。たぶんマーチンのD-45を弾いているんだと思うんですけど、マーチンの最高級器ならではのドシーンとした低音が本当にたまりません。

ジミー・ペイジなんかも、こんなニールのアコギにやられていたんだと思います。完全にロックです。ぼくもD-45が欲しいけど、最高級器なんでむちゃくちゃ音が鳴るんですよね。そんな楽器を家で弾いたら絶対近所から苦情が来ます。それに、D-45の豪華絢爛な飾り付けって、ニールが持つとかっこいいんですけど、ぼくなんかが持つと「お前、アリス・クーパー好きなん?」って思われてしまいそうな感じです。

何回も書きますが、ニールのアコギは本当にロックです。“Mr. Soul”は6弦をドロップDにしていて、グランジみたいでかっこいいんです。ビートルズというか、ジョン・レノン“Dear Prudence”みたいな感じがしますね。そして、こうして初期のニールを聴くと、ブリティッシュ・インヴェイジョン(イギリスの侵略)としてアメリカのそれまでの音楽を脅かしたビートルズに勝とうとしていた強い意志をうかがえますね。それがかっこいいと思います。

  バンドでやっていたのが辛かったみたいで、MCで「大きなアンプを使って本当にめんどくさかったんだよね。でも、スティーヴン(・スティルス)の音なんか聴こえなかった。大体スティーヴンのギターのチューニングはシャープで、ぼくのギターはフラットだった。その間にドラムとベースがいるという感じ。だから、いつも別々の曲をやっているみたいだった。スティーヴン側のお客さんはスティーヴンの曲を聴いて、ぼくの側のお客さんはぼくの曲を聴くみたいな」なんて言ってる。凄い話ですが、これってバンド批判なのかな。それとも、当時、巨大化して大きなコンサート会場でやらなければならなかったロック・シーンへの批判なのかな。モニターもPAもなく、でも会場はデカくなっていくから、とにかく自分のアンプだけを大きくして、それだけで何とか客を満足させようとしていた時代というのが気になる。

前回の『Live At Massey Hall』もそうでしたが、今回も一番の楽しみはMCかな。すごい小さな会場でやっているみたいで、録音もテレビやラジオの公開ライヴみたいな感じ。少ない人数でアットホームにやっている感じがたまらなくいい。そのなかでも一番笑わせてくれるのが、ニールがデビュー前に本屋さんで2週間働いていたという話。友達が、いいダイエット・ピルがあるのよとアンフェタミンをくれて、それをもらった日は食事もいらなくて、本を一生懸命運んだりしていたんだけど、アンフェタミンが切れた次の日は本を見るのも嫌になって、一日中ボーッとしていた。一生懸命働く、次の日ボーッとするというのを繰り返してたら、2週間後にクビになったという話がおもいっきり笑える。ニールがこの話をする前に「警察の人はいないよね」と気を使っているのも笑える。「みんな、アンフェタミンのことは知っているよね。顔がこうなったり、こうなったり、こうなったり……」というところではシャブ中の顔を真似しているみたいなんだけど、今回は『Live At Massey Hall』みたいに映像が残っていないのが残念。ニールが目を見開いている映像とか見たかったよな。今度の日本盤は、ちゃんとニールのMCが訳されているみたいなんで、英語が苦手な人も楽しめると思います。

でも、こうしてアーカイヴを聴いていると、その時代に行ってみたい気持ちになりますよね。悲しいけど、いまのロック・コンサートに行くよりも、このCDを聴いている方が楽しい。そして、ニールが何でいま、こういう作品をリリースしているかといったら、お前らより俺たちの方がロックしていただろうと突きつけてみせるためのような気がするんですよね。頑張ろうと思います。