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第132回 ─ グラム・ロック時代の実験性を感じさせるメトロノミー

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2009/02/19   14:00
更新
2009/02/19   18:32
テキスト
文/久保 憲司

 「NME」「MELODY MARKER」「Rockin' on」「CROSSBEAT」など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、ジョセフ・マウント率いるエレクトロ・ポップ・バンド、メトロノミーのセカンド・アルバム『Nights Out』について。

  いつも何が選ばれるのだろうと興味津々の「SNOOZER」誌の年間ベスト。見事2008年度のベスト・アルバム賞に輝いたのは、メトロノミーの『Nights Out』。それだけの価値のあるアルバムです。ぼくは「CROSSBEAT」誌では、ディアハンターの『Microcatsle』(たぶん)を年間ベストにしていたのですが、やっぱメトロノミーを1位にしておくべきだったかなと思っています。「CROSSBEAT」誌の1位はMGMTの『Oracular Spectacular』だし、まさに時代はニュー・サイケデリックという感じです。これに「MOJO」や「UNCUT」、「Q」などの海外誌でベスト・アルバム賞などの上位に輝いているフリート・フォクシーズ、ボン・アイヴァー、そして、グラミー賞を制覇した(いつも出来レースと言われているけど)ロバート・プラントとアリソン・クラウスの『Raising Sand』を聴くと、現在の音楽がどういう方向に向かっているのかがよく分かりますね。

  グラミー賞での、ロバート・プラントとアリソン・クラウスのステージで、T・ボーン・バーネットがジミー・リードが使っていたようなシルヴァートーンの2ピックのエレキを弾いていたんですけど、そのギターがとってもかっこよかったです。あれはオリジナルなのか、それともいまのギター職人さんに作り直してもらったのか、とっても気になる。ホワイト・ストライプスのジャック・ホワイトも、サブ・ギターとして、似たギターをステージに置いているんですけど。このギターって元々B級ギターなんですが、T・ボーン・バーネットが弾いていたのって、すごく作りが良さそうだったんですよね。ぼくも同じのを作ってもらいたいなと思いました。家でアコギ代わりに弾くのにも良さそうです。

  あっ、話が変な方向に行きました。メトロノミーです。メトロノミーを聴いていると、いろんな変なシンセの音が入っていて、ぼくはそこが大好きです。中心人物のジョセフ・マウントは、エイフェックス・ツインとかが活躍していた頃から変なシンセを集めだしていたそうです。この人たちは結構若者っぽいけど、10年選手なんですよね。いまの若者の不安感を見事に歌にしているんですけど、ホット・チップやTV・オン・ザ・レディオみたいな玄人感もある。若者感と玄人感が奇妙に同居しているところがいいです。

  いまの若者のバンドと一番違うのは、コンピューターをあんまり使っていない感じがするところで、それが凄くいいです。その不安定さが、いまの空気感になっているんですよね。そして、コンピューターを使っていないからか、ぼくはメトロノミーからブライアン・イーノ在籍時のロキシー・ミュージックを思い出すんですよね。EMSのシンセ、VCS3からセンスよく音を出すイーノ、壊れたようなギター音でコードをガシャガシャ弾くフィル・マンザネラ、そして傍若無人にサックスを吹きまくるアンディ・マッケイ、そんなワイルドな音の上を浮遊するようなブライアン・フェリーのアンニュイなヴォーカル、そんな最高の時代のロキシー・ミュージックを思い出してしまいます。

メトロノミーや、こうしたニュー・サイケデリアの音には、どこか72年くらいのグラム・ロックみたいな実験的でプログレッシヴな音を感じます。それは、この当時のグラムやビーパップ・デラックスなどの実験的なロックが、フラワー・ムーヴメントのパワーに嫌悪感を抱いていたのと似ているような気がします。新しいサイケデリックの人たちも、すこし前のダンス・ミュージックやロックンロール・リヴァイヴァルに不信感を持っているような気がしてなりません。

  これらの音が今後どういう風に発展していくのか、ぼくはよくわかりません。何となく、グラムやパンク前夜の実験的な音楽がパンクの踏み台になったように、次なる大きな動きの踏み台になるのかなという気はしているんですが。でも、いまの彼らは、ここ10年くらいの音楽のなかで、一番自由に色々な音楽を実験していっている気がするんですよね。パンク前夜の音楽が、いまの人たちのオタク心をくすぐっているように、本当におもしろいことをやっているなとぼくは思っているんですが、どうでしょう。彼らの“On Dancefloors”なんて、“Let's Go To Bed”“The Walk”“The Lovecats”といったシングルで「売れるぞ」と開き直ったけど、やっぱ無理だと“The Caterpiller”を出した頃の〈ぶっ壊れたキュアー〉みたいなんですよね。