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第100回 ─ サカナクション @ 赤坂BLITZ 2009年3月7日(土)

連載
ライヴ&イベントレポ 
公開
2009/03/08   23:00
更新
2009/03/08   23:47
テキスト
文/土田 真弓

 1月21日にリリースされたサカナクションのニュー・アルバム『シンシロ』のリリース・ツアー〈SAKANAQUARIUM 2009 “シンシロ”〉の東京公演が、3月7日に赤坂BLITZで開催された。深海のようなフロアをダンサブルに席巻した彼らのパフォーマンスを、bounce.comでは詳細にレポートいたします!!

  2月14日(土)よりスタートしたサカナクションの全国ツアー〈SAKANAQUARIUM 2009 “シンシロ”〉の東京公演が、3月7日(土)に赤坂BLITZで開催された。

 フロアに入ると、そこは水族館……というよりは深海といった雰囲気。水泡が浮かび上がる音をサンプリングしたSEが流れるなか、黒々とした壁面に投影されたサカナクションのロゴが回転している。ステージ上のモニター・アンプもさり気なくシンシロ仕様となっており(写真参照)、何だか可愛らしい。

 すでに全公演ソールドアウトしているだけあって、会場内は超満員だ。音と照明によって演出された揺らぎの空間のなかで、期待を抑えきれずさざめくオーディエンス――その不思議な対比に思いを巡らせているうちに客電が落ちた。壮麗なヴォイス・サンプリングが響き渡る。プログラミングされたギターのアルペジオと4つ打ちのリズムが加わり、続いてメンバー5人がステージ上に登場。フロアからは怒号のような大歓声が巻き起こる。

  4つ打ちでシームレスに繋ぎながら、5人はのっけからダンサブルな楽曲を連発。ベースやギターなど、各パートのソロでは草刈愛美、岩寺基晴がステージ前に飛び出して観客を煽り、フロアも同量のエネルギーでそれに応える。生演奏であるだけにサウンドはロック的なダイナミズムが増強されているが、観客は各々が拳を振り上げながらも恍惚とした表情で踊っていて、そこがサカナクションらしいというか、ロック・バンドのライヴにしては珍しい光景だ。序盤のハイライトは、個人的に挙げるなら“サンプル”以降。ブレイク(ギター・ソロ)を経て再び全員が一斉に音を放った瞬間、連鎖反応のように観客の興奮も一気に爆発。レイヴィーな空気をキープしながら突入した“ナイトフィッシングイズグッド”では、ドラマティックな展開と美麗なコーラスワークで聴き手の昂揚感を淀みなくコントロールし、会場をいきなりクライマックス級の盛り上がりに導いていく。


  ご挨拶的な1回目のMCを挟んだ後、中盤では旧作の曲を中心に披露。クラブ・ミュージック好きを標榜する彼らだけに、プログラミングと生演奏をスムースに溶け込ませた曲間のアレンジが異様に楽しく、きっちりと練り込まれている。エレクトロニカ~シューゲイザー的な音の洪水が次第に残響の渦へと変化し、いつの間にか聴き手はダブ・サイケデリックな音像のなかに浮かんでいる……など、聴きどころを挙げるともうキリがないが、その完璧にショウアップされた楽曲群からは、ライヴに対する彼らの気骨のようなものが感じられる。

 続いては2回目のMC。ここでは、フロントマンの山口一郎がメンバーそれぞれをユル~く紹介していく。

山口「こないだ初日のライヴ映像を観てたんだけど、もっち、ヘヴィメタのギタリストかと思った(笑)。いまは切ったけど、前はもうちょっと髪が長かったんだよね。髪、バーッてなってて(振り乱してて)、〈ヘヴィメタか!〉ってひとりでテレビに言ってた(笑)」。

岩寺「だって俺、ヘヴィメタあがり(だから)」。

山口「あ、筋肉少女帯あがりか(笑)」。

  ……と、岩寺の意外かつ納得なルーツが暴かれたと思えば(見た目だけではなく、彼は結構メタリックにギラついたギターを弾いている)、「みなさん楽しんでますでしょうか!?」とフロアに向かって控えめに呼びかけたキーボードの岡崎英美が盛大な拍手で迎えられているのを見て、

山口「岡崎のコール・アンド・レスポール……レスポンスを初めて見た。レスポールって言っちゃった……欲しいけど(笑)」。

など、山口の天然キャラも炸裂。会場がほんわかと温まったところで、セットは流れるように終盤へ。煌びやかなレーザー光線が場内を鮮やかに彩るなか、音源ではギターレスのため、岩寺は何を担当するのか期待されていた“ネイティブダンサー”(ライヴ・アレンジでは随所に流麗なギター・フレーズを挿入し、合間ではサンプラーを駆使していた)や、先行シングル“セントレイ”などのキラー・チューンが次々と投入されてゆく。ラストの曲の直前には「もう次の制作が始まってるんですけど、凄いいい曲できてるから!」といった嬉しいニュースも明かされ、アグレッシヴかつピースフルな余韻を残して本編は終了した。

  草刈のオトナぶりが証明された公開心理テストを経て、アンコールでようやくお目見えしたのは“三日月サンセット”。デビューするきっかけになったというこの曲を演奏し終えた後、山口は改めて今後の活動の指針をこう語った。

「エンターテイメント・ミュージックとアンダーグラウンド・ミュージックの隙間を狙って、隙間を縫う鰻のようにね、サカナクションしていきますんで、これからも応援よろしくお願いします!」。

 楽曲同様、ライヴにおける彼らの命題もまさにその言葉へと集約されるのだろうが、この日の彼らは、アルバム『シンシロ』とは別のスタイルでその命題に対するひとつの回答を提示していたように思う。山口はこの日のMCで「(音源に収録されている曲を)ライヴでやるとさ、全然違う曲になるんだよね。自分の解釈と違う言葉が見えてきてさ……やっぱりライヴっていいね(笑)」と語っていたが、彼らがステージ用に再構築してきた楽曲は、確かに音源とは別モノだ。ライヴ・アレンジというよりは、肉体性をより強固にビルドアップしたセルフ・リミックス・ヴァージョンと表現したほうがしっくりくる。ロック的なカタルシスとクラブ・ミュージック的な昂揚感の推移が絶妙にクロスする瞬間が何度もあったが、それは『シンシロ』のような作品を生み出すことのできる彼らならではのものだろう。

 ツアーはこの日がちょうど折り返し地点。彼らの故郷、北海道・札幌のPENNY LANE24で3月20日(金)、21日(土)に行われる2デイズ公演がファイナルとなる。驚喜の体験が待っているので、これから参戦するリスナーの方々は覚悟してお出かけを。

※セットリストは後日公開します!!

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