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第102回 ─ サイプレス上野とロベルト吉野 @ 恵比寿LIQUIDROOM 2009年5月24日(日)

連載
ライヴ&イベントレポ 
公開
2009/05/26   12:00
更新
2009/05/26   13:05
テキスト
文/澤田 大輔

 本サイトの連載〈サイプレス上野のLEGENDオブ日本語ラップ伝説〉でもお馴染みのヒップホップ・デュオ、サイプレス上野とロベルト吉野。1月に発表したセカンド・アルバム『WONDER WHEEL』で、さらにワイドな知名度と評価をモノにした彼らが、待望のワンマン・ライヴ〈WONDER WHEEL THE LIVE〉を5月24日(日)に恵比寿LIQUIDROOMで開催した。bounce.comでは当日の模様を詳細にレポートします!!

  
  オープン間もないフロアに足を踏み入れると、そこではサ上とロ吉の楽曲も手がけているLatin QuarterがDJ中。クボタタケシ+渡辺俊美の“TIME AFTER TIME(TIME DUB)”が場内をふんわり包む。続々と入場して来る人々は、やはりボンクラ指数高めの男子中心かと思いきや、そんなこともなくて、こざっぱりとしたオシャレさんなB-BOYが多い様子。女子率も結構高いような……なんてぼんやり考えつつアルコールを摂取している間に、選曲はディスコティックな艶を帯びていく。オーディエンスが通路までびっしり埋め尽くした18時過ぎ、暗転と共に、ステージ横のスクリーンに上野と吉野が映し出された。リキッドルームの楽屋を出た二人は、ステージ袖にてビンタを張り合い、気合一発。『WONDER WHEEL』のジャジーなイントロダクションが滑り出す。フロアから歓声が徐々に湧き上がり――〈WONDER WHEEL THE LIVE〉は厳かに幕を開けた。

  
  同業者から1歩も2歩も抜きん出た、圧倒的なライヴ・パフォーマンスを誇る彼ら。それだけに「何を観せてくれるのか?」というニヤニヤ込みの期待が会場に充満していたわけだが、サ上とロ吉がまず一発目に繰り出したのは、なんとZZ PRODUCTIONの盟友たちを従えての“ZZ CAMP FIRE”。いきなりのポッセ・カットで虚を突きつつ、パーリー感覚をブワッと吹き込んだかと思えば、続く“TIME IS ONLY IT THAT CAME”のブルータルでロッキンな音像で、フロアをグシャグシャに掻き混ぜる。暴走気味のスタート・ダッシュで場の空気を一気に掌握すると、そこからは“イントロ II”や“サ上とロ吉”など、ライヴ定番のご挨拶&自己紹介的ソングを連続投下。2台のターンテーブルとマイクロフォンだけで魅了する、最高の現場テイメント。磨き上げられたルーティーンの数々に、場内は当然のごとくロック・オン。息の合いまくったコール&レスポンスに、上野も「ばっちりっす!」と満面の笑み。

「すげえ、マジ最高。この素晴らしい空間に集まってくれたみんなのことを歌った曲をやりてえんだけど……なんかそういう曲なかったかな?」と上野が問えば、吉野は「“素敵な仲間”って曲にしましょう」と声ネタで返答。緩い和モノ使いのトラックに「マザファッカ!」と呑気に乗せて脱力させると、お次の“ボンクラの唄”ではオートチューン・ヴォーカル担当のALI-KICK(Romancrew)を呼び入れて、東スポの朗読を強要。上野もオートチューンを駆使して、ダメな日常をPerfumeばりに歌い上げる。この妙な嫌がらせ感(?)もサ上とロ吉ならでは。場内を、爆笑と失笑がいい塩梅で交錯する。

  
  「今日は(フロアが)埋まるかどうか不安でしょうがないって、ブログとかでさんざん書かれて。〈100人くらいでカワイソス〉みたいな(笑)。実際、俺たちもリキッドのキャパまで調べちゃって、どんだけ不安なんだっていう(笑)。でも、こんなにぎっしり集まってくれて、ありがとうございます!」と感謝を述べる上野。“PRINCE OF YOKOHAMA”では、そんな彼の顔をどデカくプリントした横浜市長候補ポスターをばら撒いた。そのコピー曰く〈横浜の明日をこのカスが明るく照らします〉!

  この日は、アルバム『WONDER WHEEL』参加陣を中心に、様々なアーティストがゲストとして登場したわけだが、なかでもハイライトとなったのが、笹沼位吉(Sly Mongoose)と熊井吾郎を迎えた「まさかのセッション・スタイル」(上野)だろう。吉野のターンテーブルと、笹沼のベース、そして熊井が叩くMPCという編成で、“女喰ってブギ”“未来は暗くない”SEEDAの“HELL'S KITCHEN”といった全6曲を次々に披露。笹沼の不穏なベースラインや、熊井のソリッドなビートが、原曲とはまるで異なる風景を描いていく。そのフレッシュなサウンドに、幾度とない歓声が上がった。

 
  ここでショート・ブレイク……という感じで流れ出したのが、上野&吉野ママのインタヴュー映像。〈GANGSTA BITCH〉のTシャツを着た上野明子氏のヤバい姿などを堪能したところで第2部がスタート。TARO SOULや将絢(Romancrew)を迎えてのラヴソング特集でメロウネスを振りまくと、「後半戦、ラヴソング2曲で始まって、なんかうずいちゃって……1曲歌っちゃってもいいすか?」と吉野。無骨なスクラッチでビートを操る上野をバックに、ある意味ラヴソングとも言えるマッドなナンバー“クレイジーラブ”を披露。ラストに咆哮を上げると、そのままDEEP SAWERを呼び込み“横浜~藤沢 酒呑みラップ”へとなだれ込んだ。狂騒感たっぷりのお祭りチューンに、フロアのテンションもうなぎ登り。
 
 “184045”や“横浜ジョーカー”など、ZZ PRODUCTIONの面々との共演チューンを集めたポッセ・タイム、彼らがヒップホップに出会った時代=90年代の風景を書き留めたRYUZOとの名曲“START LINE”、そして、LUVRAW&BTBのトークボックスが甘美に浮遊した「邦題は〈くそばばあ〉」(上野)こと“DEAR MaMa”……それぞれ、仲間/シーン/母親へのリスペクトを込めた、真っ当にヒップホップ流儀の楽曲たち。そんなセットを衒いなく提示してみせる姿に、ヒップホップ道のど真ん中を歩まんとするこれまでにない彼らの気概が感じ取れる……のだが、その直後にはシリアスな空気を無に帰す“ヒップホップ体操”で、会場をユル~く揉み解す。そして本編ラストは“WONDER WHEEL”。フッド(地元)愛あふれるキラー・チューンで鮮やかに締めくくった。

 
  アンコールの幕開けを告げたのは、「金が欲しい、モテたい、好かれたい、しかも有名になりたい」という、彼らのライヴではお馴染みの声ネタ。それに対して「すべて手に入れました!」と返してステージに舞い戻った上野と吉野は、まずメイク・マネー賛歌“GET MONEY(借)”を投下し、続いてはライヴ中に配信リリースがスタートした新曲“ZZPPP”。「これが横浜のパーティー・マスター・スタイル!」と、Latin Quarter製の煌びやかなサウンドを初披露してみせる。

  この辺で大団円かと思いきや、なんと最後のゲストとして、文字通りの師匠格である宇多丸(RHYMESTER)が降臨。「暴れる瞬間!!」という師匠のスクリームを合図に轟いた“MASTERSオブお家芸”でフロアは総モッシュ状態。波打つオーディエンスの頭上を吉野が2度に渡って華麗に遊泳して見せた。そして本当のラストは、もはやクラシックの風格すら漂う代表曲“Bay Dream ~フロム課外授業~”。前回の単独ライヴ同様、オーディエンスが次々とステージ上に引き上げられていくという最高にカオティックでピースフルな光景の下、パーティーは締めくくられた。

知恵とアイデアとスキルを総動員して作り上げられた最高のヒップホップ・エンターテイメント。だがそれは観る者を圧倒する完璧なショウを目指したものではなくて、もっとラフで自由で、誰もが飛び込める感じ。そこにこそ彼らの理想とするヒップホップ像が伺えたように思う。アーティストとしての堂々たる風格を備えつつも、〈みんなで遊び倒してやるぜ!〉というやんちゃなキッズ感を失わない二人の姿に心を揺さぶられっぱなしの、濃密な2時間40分だった。

▼サイプレス上野とロベルト吉野の作品