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第103回 ─ 高橋幸宏 @ SHIBUYA-AX 2009年6月6日(土)

連載
ライヴ&イベントレポ 
公開
2009/06/08   12:00
更新
2009/06/10   16:57
テキスト
文/澤田 大輔

 3月にニュー・アルバム『Page By Page』をリリースした高橋幸宏が、実に3年ぶりとなるソロ・ライヴ〈Yukihiro Takahashi Live 2009 "OUT OF HERE"〉を6月6日(土)にSHIBUYA-AXにて開催した。コーネリアスの小山田圭吾らもゲスト出演した豪華にしてグルーヴまみれの当夜の模様を、bounce.comでは詳細にレポートいたします!!

  客電が徐々に絞られると、ステージに配されたライトがランダムに点滅しはじめ、ファットなリズム・ボックスが鳴り渡った。高田漣(ペダル・スティールほか)、権藤知彦(フリューゲル・ホーンほか)、千住宗臣(ドラムスほか)、鈴木正人(ベースほか)、堀江博久(キーボードほか)……強力な5人のバンド・メンバーが一人、また一人と登場し、喝采を浴びる。最後に現れた高橋幸宏はステージ中央に陣取るかと思いきや、ちょっと勿体ぶった足取りで、いきなり後方のドラム・セットへ。大きなどよめきと歓声が沸き起こるなか、高橋と千住のツイン・ドラムが豪快なビートを叩き出す。ライヴは、激ファンキーなセッションで幕を開けた。まずは肩慣らし……といったリラクシンなムードを纏いつつ、吐き出されるグルーヴの強度はハンパない。予想外の展開に仰天していると、お次はその真逆を行くようなビートルズ“You've Got To Hide Your Love Away”のフォーキーなカヴァー。後方には、英国の田園風景を切り取ったスライドが映し出される。急激に熱気を帯びたフロアが一転して、和やかな空気に包まれていく。

  「誰が言ったんだか、6月6日(高橋の誕生日)にコンサートをやることになっちゃって……会場を探したらここしかなくて。窮屈な思いをさせてすいません(笑)。でも、きっと楽しいと思うんで、最後まで楽しんでいってください」。

 そんなMCに続いて、電子バグパイプをフィーチャーした“The Muse”、キュートな音色でロマンティックな物語を紡ぐ“The Words”、とぼけたホーンのフレーズがスライを想起させる“Lay My Love”など新作『Page by Page』からのナンバーを立て続けに投下。エレクトロニカを消化した〈ユキヒロ印〉のポップ・ソングの連打で陶然とさせつつ、ここでも匠の生演奏を滑らかに注ぎ込み、楽曲をグイグイとドライヴさせる。「去年はpupaをやってまして。今日のメンバーのうち3人はいっしょなんで、変わり映えしないっちゃあしないんですけど(笑)」なんてジョークっぽく語っていたが、ポップに寄り添ったpupaとはあきらかに違う音が、ここでは鳴っている。2009年のユキヒロ・ソロは凄まじくファンクなのだ。

  中盤に差し掛かったところで呼び込まれたのが、新作にも参加していた小山田圭吾。ソリッドなギター・リフをザクザク刻み、共作ナンバーである“Emerger”を披露。そして、スティーヴ・ライヒ風のミニマルな展開を聴かせる“Out of Here”を経て繰り出された“Atomic Chicken Dog”は、当夜のハイライトと言っていいだろう。ツイン・ドラムと柔らかく蠢くベース、フリーキーな電子ノイズとハイファイなシンセ、ニューウェイヴィーな小山田のギター……といった音たちが網の目のように絡むフューチャー・ファンク。オーディエンスも熱狂と嬌声でそれを迎える。

  そこまで盛り上げたにも関わらず、「ちょっと張り切りすぎてしまったので、ここからはいつものドーンと暗い世界に……」と笑わせながら、照れを覗かせるところがまたユキヒロらしい。スティーヴ・ジャンセンとのコラボ曲“Indefinable Point”、そして“Blue Moon Blue”……心地良い陰りを持ったメロディーに会場をどっぷりと沈ませる。かと思えば、続くマーズのカヴァー“Everybody Had A Hard Year”では高橋自身がアコギを奏で、ほっこりとしたメロディーで会場を温かく包みこんだ。

  ライヴもいよいよ佳境へ。ここで2人目のゲストとして、高橋の敬愛して止まないラリ・プナのメンバー、ヴァレリー・トレベルヤーが登場し、彼女たちのカヴァー“Scary World Theory”や“Out There”に、その可憐な歌声をふわりと浮かべてみせる。本編ラストの“Meteor Rain”では、映像と電飾による星空がステージ上に広がり、どこまでも優美な音世界にロマンティックな彩りを与えていた。

  高橋だけでなく、誕生日が近いという鈴木とヴァレリー嬢の3人をバースデイ・ケーキで一度にお祝いしたところで、アンコールがスタート。ふたたび小山田が加わっての“Still Walking To The Beat -prmx-”では、本日3度目の大グルーヴ大会が勃発。鳴り止まないダブル・アンコールに応えての本当のラストは、バート・バカラックの名曲“What The World Needs Now Is Love”。そのメランコリックなワルツのカヴァーでドリーミーに締め括られた。

  それにしても、ユキヒロがこんなにもドラムを叩きまくるとは! それはもちろん単なるファン・サーヴィスではないはず。近年のYMOも生演奏に比重を傾け、とてつもないグルーヴを放出するライヴを繰り広げていたわけで、今回のソロ公演は、おそらくそのファンク路線をさらに推し進めんとする試みだったのだろう。『Page By Page』と『BLUE MOON BLUE』という近作2枚の収録曲で、ほぼ全編が構成されていたことも含め、迷いなく前進し続ける高橋幸宏の姿が明快に見て取れた一夜だった。

Yukihiro Takahashi Live 2009 "OUT OF HERE"
セットリスト

1. Opening
2. You've Got To Hide Your Love Away
3. The Muse
4. The Words
5. Lay My Love
6. I Like The Wright Brothers, But No Airplanes
7. Emerger (guest:Keigo Oyamada)
8. Out of Here (guest:Keigo Oyamada)
9. Atomic Chicken Dog (guest:Keigo Oyamada)
10. Indefinable Point
11. Blue Moon Blue
12. Everybody Had A Hard Year
13. My Favorite Hat
14. Scary World Theory (guest:VALERIE TRABELJAHR)
15. Out There (guest:VALERIE TRABELJAHR)
16. Meteor Rain (guest:VALERIE TRABELJAHR)

―アンコール1―
17. Still Walking To The Beat -prmx- (guest:Keigo Oyamada)
18. Where Are You Heading To?

―アンコール 2―
19. What The World Needs Now Is Love
ending. Valerie

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