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第141回 ─ ケイジ・ジ・エレファントはガサツなアークティック・モンキーズ!?

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2009/06/24   17:00
更新
2009/06/24   18:27
テキスト
文/久保 憲司

 「NME」「MELODY MARKER」「Rockin' on」「CROSSBEAT」など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ 〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、今年の〈フジロック〉にも登場する米国の新鋭バンド、ケイジ・ジ・エレファントのデビュー作『Cage The Elephant』について。

  今年の〈コーチェラ〉でのライヴ映像を観て、いまさらながらレナード・コーエンにハマっています。去年の〈グラストンべリー〉でのライヴもヤバかったみたいですね。“Hallelujah”と共に日が落ちていったそうで、いやーっ体験したかった。この時期のレナード・コーエンのライヴが〈Live in London〉というタイトルのCDとDVDで発売されているので、買おうと思っています。

とにかくレナード・コーエンの歌詞を全部覚えたいですね。まだ全然よくわかってないんですけど、彼は本当にすごそうです。『Berlin』の頃のルー・リードって、要するにレナード・コーエンだったんだなとしみじみ思っています。
 
シスターズ・オブ・マーシーというバンド名がレナード・コーエンの曲から取られていたり、ニック・ケイヴがレナード・コーエンの曲“Avalanche”をカヴァーしていたりと、何十年も前からレナード・コーエンの音楽はいつも僕のそばにあったのですが、カート・コバーンの〈あの世でレナード・コーエンを聴かせてくれ、永遠に嘆いていられるから〉という“Penny Royal Tea”の歌詞のように、なんとなく敬遠していました。でも、いま聴くと、彼の歌は物語としてすごいんですよね。英語の歌詞カードと辞書を持ちながら、ゆっくりと聴いていきたいなと思っています。

  でも、いますぐレナード・コーエンに取りかかるわけにはいかないんですよね。何故かというと、いま僕が一番好きなバンド、ケイジ・ジ・エレファントが〈フジロック〉に来るので、それまでに彼らの歌詞を全部覚えたいからです。何とか一緒に大合唱したいのです。

ケイジ・ジ・エレファントは本当にカッコ良いんです。アークティック・モンキーズがむっちゃガサツになった感じというか、ハッピー・マンデーズになった感じというか、シンナーをやってるベックというか、とにかく僕の気持ちにドンズバなバンドなんです。こんなすごい歌を1枚目のアルバムから書けるなんて、アークティック・モンキーズみたいな天才だと思っていたんですが、実はそういうわけでもなかったようです。ケイジ・ジ・エレファントの主要メンバーは、パーフェクト・コンフュージョンというバンドを2001年に結成していて、2004年には『Perfect Confusion』というアルバムを出したものの、話題になりませんでした。そういう下積み時代があったんです。ちょっとがっかりしましたが、やっぱり人間、努力が大切だよねと嬉しかったりもします。

『Perfect Confusion』もケイジと同じ方向性なんですけど、あんまりおもしろくないんですよね。ケイジのおもしろさって、アメリカのバンドなのに、アークティック・モンキーズ的なイギリスっぽい感じが入ってきているところにあると思うのですが、その部分が少ない感じがします。

  アメリカでもちょっとヒットした“Ain't No Rest For the Wicked”(ベックっぽくってケイジのなかでは一番好きじゃない曲なんですが)なんかは、アークティック・モンキーズの名曲“When The Sun Goes Down”の感じと似てるんです。

この曲のストーリーは3つに分かれていて、まず最初に主人公が町を歩いていると、娼婦が遊んでいかないかと誘う。主人公が「君みたいな可愛い子が、何でそんなことをするんだ」と訊くと、娼婦は「お金が必要だからね」と言う。また町を歩いていると、次は強盗がピストルを突きつけて「お金をよこせ」と言う。「お金はあげるけど、何でこんなことをするのか教えてくれ」と訊くと、強盗は娼婦と同じように「お金が必要だからね」と言う。最後に、家に帰ってテレビをつけると、神父が教会の金を盗んだことが報道されている。なんて世の中だと思うけど、まあ人間、誰でも死ぬまでお金が必要だからな、と歌われる。

誰もがお金の奴隷になっていることを知っていて、そこから抜け出せる方法も知っているのに、それでも奴隷になってしまっている物語が、不良少年の声で歌われる。それがたまらなくカッコ良いのです。

アルバムの1曲目“In One Ear”での、パーフェクト・コンフュージョン時代の評論家に対する不満をぶちまける感じとかも、現代のジョニー・ロットンみたいでカッコ良いんです。まだまだ曲の解説ができるんですけど、僕は英語をもっと調べないといけないので、みなさんもこのアルバムを買って、ぜひ自分でチェックしてみてください。

最後にケイジ・ジ・エレファントの一番カッコ良いところを挙げると、ニューオーリンズ・ファンクのカッコ良さ、オリジナル・ロックンロールが持っているグルーヴのカッコ良さをちゃんとわかっているところなんですよね。“Free Love”って曲なんかに、そういう魅力が表れてます。まあ〈Good Time Last〉ってフレーズが、シャーリー&リーによるニューオーリンズR&Bの名曲“Let The Good Times Roll”にちょっと似てるだけなのかもしれませんが。それではみなさん、〈フジロック〉の〈RED MARQUEE〉ステージの1列目で〈Good Times Roll〉しましょう。