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第105回 ─ VANS WARPED TOUR @ シーサイド・パーク(カリフォルニア州ヴェンチュラ)2009年6月28日(日)

連載
ライヴ&イベントレポ 
公開
2009/07/06   17:00
更新
2009/07/09   18:14
テキスト
文/塀戸門家

全米を1か月かけて巡る移動式音楽フェスティヴァル〈ワープト・ツアー〉に潜入取材を敢行! 世界最大級のパンクの祭典である同フェスのラインナップからは、現地ロック・シーンの最新モードがビシビシと感じられますよ!!

  毎年6月末にLAでスタートし、1か月をかけて全米を回り、8月末にまたLAに戻って千秋楽を迎える〈ワープト・ツアー〉は、なんと今年で開催15年目! パンクとボード・スポーツのクロスオーヴァーといった、カリフォルニア発のユース・カルチャーを代表する夏恒例の移動式フェスだが、例年に比べると今回の〈ワープト〉は新たな局面を迎えた記念すべき年だ。

 まずは、近年増殖中だったメタルコア系のアーティストの出演が、今年はデヴィル・ウェアーズ・プラダ、アレクシスオンファイアくらいでほかは激減。これはバンドの成長やマーケットの拡大に伴い、〈ワープト〉の他にもメタル・フェスが増えたことによるもの。同時期に行われた別のメタル・イヴェントにも顔を出したのだが、ティーンエイジャーがメインの〈ワープト〉とはあきらかに客層が違っていた。

  やはりパンクをルーツに持つ〈ワープト〉には、90年代に隆盛を極めたバッド・レリジョン、NOFXといった大御所パンク・バンドが、当時と変わらぬ姿でメイン・ステージに出演するのが相応しいと思うし、それらに影響を受け、パンク~エモ~スクリーモといった流れを生み出したセイオシン、アンダーオースといった中堅バンドが同様に人気を博しているのを観ると、キッズ的には安心して楽しめるというもの。


LIGHTS 写真/塀戸 門家

  その一方で、今年はオールドスクール・ステージも設置され、T.S.O.L.やガターマウスらの往年のヴェテラン・パンク・バンドも出演。こちらには30~40代の子連れパンクスの姿も見られた。抜けるような晴天の下、昼間から野外で親子2代でパンクを楽しむという、あまりにも健康的な光景は、実にカリフォルニアならではのスタイルと言えるだろう。

 また、今年は女性ヴォーカルを擁したバンドが飛躍的に増えたのも特徴。ヴォーカルとギターの姉妹から成るエモ・ポップ・ユニットのメグ&ディア、弱冠17歳ながら初参戦となったソロ・シンガーのライツ、〈アメリカ版Perfume〉とも言える3人組ガールズ・ユニットのミリオネアズ、男女混合スクリーモ・バンドのアイズ・セット・トゥ・キル、メタル・クィーン=マリア嬢率いるイン・ディス・モーメントと、どれもサウンド・スタイルは異なるものの、とにかく女性のステージ進出が目立つ。実際に〈ワープト〉に訪れているキッズの半数は女のコだし、それが同性を支持するのは当たり前と言えば当たり前なのだが。

  しかしながら、今回の〈ワープト〉における最大の見所は、何といってもポスト・スクリーモとして世間を賑わせているエモトロニカの隆盛が挙げられる。パンク+ダンス・ミュージックのハイブリッドとも言える彼らは、自由な発想に基づき、バンド編成にこだわらずMC+ラップトップDJという新たなスタイルで熱狂的な人気を誇る。

 これはあくまでも私見だが、ヒップホップやレゲエ、テクノやハウスだけをダンス・ミュージックとして捉えるというのはひと昔前までの話で、いまやパンクにとっても 〈ダンス〉は重要なキーワードとなってきている気がする。パンクは参加型の音楽だからこそ、体を動かしてナンボのサークル・ピットや、モッシュ、ステージ・ダイヴといった独特のダンス的なマナーを生み出してきた。それを踏まえた上で考えると、そこからパンク+ダンス・ミュージックであるエモトロニカのような新たなスタイルが派生しても何の不思議はないはずだ。

  ゆえに、すでにさまざまな議論を巻き起こしている「PCを使ったDJや、生楽器の演奏を必要としないエモトロニカがパンクなのか?」という点に関しても、既存の音楽に対するアンチテーゼというパンク・スピリットに基づくサウンドであるという意味では、エモトロニカは間違いなく新しいスタイルのパンクなのだと言えるだろう。

  実際に、昨年は小ステージに出演していたスリー・オー・スリーが、今年はメイン・ステージのトリに起用されたり、〈ワープト〉初参戦のブロークンサイドがメイン・ステージを喰う勢いで注目を浴びている様子を見る限り、もっとも注目すべきなのは間違いなくこの路線だ。そこにさらにメタルコアの要素をミックスしたアイ・セット・マイ・フレンズ・オン・ファイア、ブレス・キャロライナ、アタック・アタック!あたりも同様に大きな注目株だと言える。

 メロコアからスカコア、スクリーモ、メタルコア、そしてエモトロニカ。15年の歴史のなかで、さまざまなブームを生み出してきた〈ワープト〉。今年もまた、そこから火のついた連中が今後の音楽シーン全体に新たな一石を投じる。そして、〈ワープト〉自体にも新たな歴史を刻んでゆくのだ。

▼文中に登場したアーティストの作品